勇者、合コンで女の子をお持ち帰りなんて都市伝説だと思ってる
マーロを町長室に連れてくるという指令は、驚くほどあっさり達成できた。
というのも、町長室を出たら廊下にマーロがいたからだ。
「あ、あの……途中で投げ出すような真似をして、すみませんっした。スウィカの分、ちゃんと皆さんのお手伝いしなきゃ、婆さんに申し訳立たねぇっすよね。それで、町長に話は」
殊勝に謝るマーロに俺が何か言う前に、インテルフィが彼の腕を掴み、エルフ姉妹達がドアを開いた町長室に放り投げた。
バッチリ連携プレーすぎて、思わず見とれたわ。こいつら、いつのまにこんなに意気投合したんだ? 女子の団結力って、時に軍隊を凌ぐよな……。
後を追って俺も室内に戻ると、そこには微妙な空気が流れていた。
いきなり投げられたせいで受け身を取ることもできなかったらしく、でんぐり返しの失敗型――俗に言うちんぐり返しの状態で転がるマーロ。
デスクから立ち上がり、自らの股間から顔を出している彼を見つめる町長。
望み通り、マーロきゅんを連れてきたというのに、町長は声を発することも筆談のためにペンを取ることもせず、ただ固まっている。
時が止まったような静寂を破ったのは、マーロの呻くような声だった。
「お、親父……」
それに呼応して、町長もメモを掲げる。
『ようこそ♡我がムチュコよ♡未来の職場見学に来たのかなかな♡』
ムチュコって……息子?
マーロって、町長の息子だったのか!
それを見るやマーロは立ち上がり、町長の手からメモを取り上げると、チュッチュと音声付きでキス顔をするちょうちょタンのイラストごとビリビリと破いてしまった。
「うるさい、何が未来の職場だ! 何度も言っているが、俺は親父みたいに役人になるつもりはないからな! 将来は市場を開くと決めているんだ!」
『マーロきゅんに市場のお仕事は向いてないよ♡パパの言うこと聞いて♡ここで一緒に働こ♡お願い♡』
「そんなお願い聞けるか! 向いている向いていないは、やってみなくちゃわかんねぇだろ!?」
『マーロきゅんは強情さんだなぁ♡そういうところも可愛いけど、あんまりキツいことばかり言われるとパパ泣いちゃうよ♡』
二人のやり取りから窺うに、どうやらマーロの進路の件で揉めているらしい。
しかしマーロの必死さは伝わってきたが、町長のメモにはハートマークとちょうちょタンのイラストがもれなく付いてくるから、緊張感がまるでないぜ……。というか息子に対しても筆談なのかよ。マーロ、よくお喋りできる子に育ったな。弟や妹がいると言っていたが、苦労してそうだ。
「泣いたって、俺は親父の思い通りになんてならないぜ! 町役場になんか就職しねえ! 親父に反対されようと、俺は俺の道を行く! 町の皆が笑顔になれるような市場を作るって夢を叶えるんだ! 学校を卒業したら家を出て、卸売業と農業の勉強をするんだからな!」
『そんなことボクが許さないよ!』
白熱するマーロに、町長は初めてイラストのない文字のみのメモを突き出した。マーロが初めてたじろぐ。イラストなしのメモは、息子ですら見慣れないレアもののようだ。
マーロが黙ると、町長は俺達を一瞥してまたペンを走らせた。
『さっきも言ったようにこれから皆にゲームをやってもらいます♡勝ったらキミ達には欲しい情報を話すよ♡マーロきゅんの夢も認めてあげる♡』
「な、何!? 本当か、親父!?」
町長のメモを見て、マーロが嬉々とした声を上げる。
しかし俺は、とてつもなく嫌な予感がしていた。俺達の知りたいことを教えてくれるだけならまだしも、あれほど反対していた息子の進路まで応援するというのだ。どう考えても怪しい。
町長はニッと口角を上げ、二本の細巻きタバコ――によく似た形の細長いチョコスティックを取り出した。そしてそれをデスクに置き、予め書いておいたと思われるメモを掲げてみせる。
『これの先端をそれぞれくわえて、折らずに食べ進めるのです♡最後まで食べ切れたらキミ達の勝ちだよ♡』
え……?
『選手はボクから指名するね♡マーロきゅんとエルフの女の子二人にやってもらいまぁす♡』
ええ……?
『ただし、負けたらマーロきゅんは町役場に就職してボクの跡継ぎになること♡いいね♡』
いや……待って?
そのゲームって、もしかして合コンで見たことある、アレ……?
「何だ、そんな簡単なゲームでいいのか? フン、息子には甘いようだな。おいマーロ、とっとと済ませてしまおう」
「殺し合いでもさせられるのかと思ってたのに、拍子抜けですねぇ。マーロさん、こっちもいつでも大丈夫ですよ」
細いスティック状のお菓子を口にくわえて、ラクスとパンテーヌがマーロに迫る。
やっぱりそうだよぉぉぉぉ!
これ、最終的にチュッてキッスしちゃうやつじゃないかーー!
俺が高速で食べる練習をしたのに、相手の女の子が皆くわえた瞬間にへし折るから一度も成功したことないやつーー!!
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