勇者、ブチッもブチブチブチィッもイヤイヤ
「……って、何でお前ら、まだここにいるんだよ!?」
出入り口のドアを開けた瞬間、俺は激しく吠えた。
玄関前に日除け用に植えたグリーンカーテンの側で、エルフ姉妹が路地裏にたむろするチンピラみたいな格好で座り、果実を貪り食っていたからだ。
「作戦タイムを取っていた。我々もこのまま引き下がるわけにいかぬのでな。薄毛……いや、ウスゲン殿、何故傘など差しているんだ? 雨は降ってないぞ?」
「もう、お姉様ったら。あれは日傘というやつです。直射日光から頭皮を守るためのものですよ。すみません薄毛……ウスゲン様、お姉様は女子力底辺なんです」
作戦会議を取るついでに、家の裏に植えたスウィカまで盗ってきたらしい。丹精込めて育てた俺すら、今年はまだ口にしていないというのに。
それと妹の方、お前も日傘の認識を間違ってるからな? 姉のことを言えたレベルじゃないぞ?
呆れる俺の前で、二人はぺぺぺっと種を吐き出して綺麗に赤い果肉をこそげ取ったスウィカの皮を置き、立ち上がった。
「先程は大変失礼した。どうにも私は長話と自慢話とつまらない話が苦手なもので、つい横槍を入れてしまった。深く反省している」
姉のショートヘア美女が、フンと鼻を鳴らして胸を張る。まるで反省していなさそうな態度だが……ほう、インテルフィとスウィカにまでは及ばないにしても、中身は黒のローブの上からでもわかるくらい豊かに実っているようだな。ほうほう、ショートヘア✕巨乳のコンビネーションか。いいぞ、俺の好みだ。
「相談の結果、これまでの非礼をお詫びし、薄毛……いえ、ウスゲン様のお話を伺った上で、改めて交渉しようということになったのです。どうかもう一度チャンスをください」
対して妹のセミロング美少女は、控えめな胸の前で手を交差させて祈りの形に組んでおねだりしてきた。むむ、このポーズは大変そそる。恥ずかしそうに隠しているようにも、頑張って寄せて上げているようにも見えて二度美味しい。チビッコを活かした縋るような上目遣いも堪らんな。いいぞいいぞ、ロリも悪くない!
荒ぶりかけた鼻息を押さえようと、鼻の穴を膨らませてスケベ心を体外放出していた俺だったが、そっと肩に手を置かれて固まった。
「エージ、素敵な女性に囲まれて幸せそうですわね。せっかくだから選ばせてあげますわ。ブチッにします? ブチブチブチィッになさる? それとも、わ・た・く・し?」
いつの間にか背後にいたインテルフィが、耳元に優しく囁く。たちまち俺は顔面蒼白となった。
「女神様、ご安心ください! 私達は女神様の大切な薄毛様に手出しするつもりなどございません!」
「お姉様の言う通りです! たとえ女神様がイラネと放り出されたとしても、決して絶対に断固として薄毛様だけはありえませんから!」
「だーかーらー! 薄毛じゃなくてウスゲンじゃーー!」
喚く俺を片手で押し退けると、インテルフィは膝を付いて弁解する二人の前に進み出た。
「お気遣いなさらずとも、大丈夫ですわ。あなた方がこのクソゴミザコ野郎に恋慕するなんて、ありえないことだとわかっておりますもの。薄毛、いえエージに惚れるようなゲテモノ好きがいるなら、お会いしてみたいくらいよ」
このアマ、わざと名前を間違えたな。そのクソゴミザコ野郎に執着するゲテモノ好きのくせに、よー言うわ!
「それとわたくしのことを、女神様と呼ぶのはやめてくださいな。もう女神ではないのですから、インテルフィと気軽に呼んでくださいませ。こちらはエージでもウスゲンでも薄毛でもハゲ散らしマンでも、何とでもお呼びして構いませんわ」
ハゲ散らしマンはいくら何でもひどくない!? そこまでハゲてないし! 部分的にほんのり頭皮が見えるかな〜ってくらいだし!!
「女神でなくなったとしても、あなた様の神々しさは変わりません。インテルフィ様、それに薄毛、私はラクス・トレッセスと申します」
ショートヘア巨乳姉がまず名乗る。おい、選択肢の中から薄毛と呼ぶことを選ぶな。
「ええ、愛する者を独占しようとしない慈悲深い御心はまさに女神の鑑です。私はパンテーヌ・トレッセス、以後お見知りおきを。インテルフィ様、ハゲ散らしマン」
セミロング貧乳妹、貴様は一番選んじゃいけねえやつを選んだな? 可愛い顔して姉より性格悪いぞ、こいつ!
自己紹介が済んだところで、俺は二人にスウィカの皮を拾わせ、再び家の中に入れてやった。
しかしもう一度お茶を淹れようとキッチンに向かいかけた俺は、すぐさま脱力する羽目となった。ティーカップが中身もろとろ、ダイニングテーブルのすぐ側の床に落ちて粉々になっていたからだ。どうりで、あんなに早く外に出てきたわけだ……いつも割るだけ割って、片付けは俺に丸投げするんだから、本当に質が悪いよな!
おかげでカップのストックは尽きてしまった。どうせまた飲まなさそうだしスウィカで勝手に喉を潤していたようだし、お茶は出さなくていいだろう。半泣きで床を綺麗に掃除して二人を座らせると、俺も席に着いた。インテルフィのアホも、当然のように俺の隣に座る。ナチュラルに詫びの一言すらなく、平然としているのが誠に腹立たしい。
それはさておき、ラクスとパンテーヌと名乗った二人が聞きたいのは、俺の好みの女の子のタイプと、俺が何故彼女達の依頼を受けられないか、この二つだろう。
好みのタイプは幅広いが、片付けられない奴とごめんなさいありがとうが言えない奴だけは願い下げだ。俺の隣にいる奴みたいな、な!
それもさておき、『魔王を倒した最強の魔法剣士』であり、勇者とまで呼ばれた俺を探してまで頼ってきたということは『魔道士団長を拐った犯人』は相当厄介な相手だと思われる。
だとすれば、早めに手を打たなくてはならない。彼女達もそれを理解しているだろうから、時間が惜しいはずだ。
なので俺は勇者烈伝を語るのは諦め、依頼を受けることができない大きな理由である『インテルフィの加護』について話すことにした。これを聞けば彼女達も諦めて、俺ほどではないにしてもそれなりに強そうな奴に助力を求めてくれるだろう。
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