第27話

 しばらく勉強していると、2階から降りてくる階段の音がした。母さんが降りてきたのだろう。


 2階から降りてきた母さんは、チラリと俺たちに視線を向けた後、キッチンへと向かった。そこで、何やら作業を始める。


 何をしているのか知らないが、そこまで気にすることではないだろう。そう思った俺は、勉強を再開する。


「し、信護。ちょっといい?」


「ん?なんだ?心南」


「こ、ここ、教えて欲しいんだけど……」


 俺が勉強を再開すると、隣に座る心南が問いかけてきた。分からない所があったようだが、どうやら英語のようだ。


 俺が心南に英語の問題を教えていると、母さんがキッチンから出てきた。その手にはお盆があり、上にはお菓子とジュースが乗っている。


「3時になったから、おやつを持って来たわよ。息抜きにどうぞ」


 俺が心南に英語を教え終えたのと同時に、母さんが俺たちに声をかけてきた。俺は一旦テーブルから勉強道具をどけて、お盆を置けるスペースを作る。


 そのスペースに、母さんはお盆を置いた。そしてジュースを、一人一人に配っていく。


「ありがとう。母さん。母さんの言う通り、息抜きにしよう」


 俺が皆にそう声をかけると、皆も頷いて一度勉強道具を片付け始める。皆が片付け終えてから、俺はお盆をテーブルの真ん中辺りまで移動させた。


 それから、皆そろっておやつを食べ始める。皆も喜んでくれているので、良かった。母さんのおかげだ。


「ただいま~!」


 俺たちがお菓子を食べていると、聞きなれた声が玄関から聞こえてきた。どうやら、市菜が帰ってきたようだ。


「あら、おかえりなさい。市菜。お兄ちゃんのお友達が来てるわよ」


「え!?そうなの!?」


 母さんが玄関の方にいって市菜にそう言うと、市菜は驚いていた。……そういえば、市菜には家で勉強会をすることを伝えていなかったか。


 バタバタと音がしてから、市菜が母さんと共にリビングにやってきた。そんな市菜を、俺は視線を向けながら迎え入れる。


「おう。おかえり、市菜」


「ただいま!お兄ちゃん!友達と遊びに来たの?」


「いいや、勉強会だ。今は息抜き中だけどな。市菜も一緒に食べるか?」


 市菜の質問に、俺はそう答えた。俺の提案を聞いた市菜は笑みを浮かべながら、地下強く頷く。


「うん!食べる食べる!でも、ちょっと待ってて!」


 市菜はキッチンに行って、俺たちと同じジュースを入れた。それから市菜はテーブルまで戻ってきて、心南とは反対側である俺の真横に座る。


「改めまして、小田市菜です!いつもお兄ちゃんがお世話になってます!」


 市菜にとっては、ほぼ初対面の人もいるので自己紹介をしたのだろう。皆も市菜に対して好意的だったので、良かったと思う。


「いえいえ~!それにしても、市菜ちゃんも可愛いね!」


「え?えっと、あ、ありがとうございます……?」


 照花が突然そう言ったので、市菜は困惑していた。恐らく照花は、勉強を始める前の話に繋げているのだろう。


「まあ、母さんが綺麗って話があってな。それでだと思う」


「あー、なるほどね。確かにお母さん、年齢を感じさせないもんね~」


「お、市菜ちゃんから見ても、そう思うのか」


「当然ですよ!正直、信じられないですもん……。ほんとに、昔から変わってないみたいで」


 市菜もまた、照花と同じようなことを言ってきた。市菜がそう言うということは、本当に昔からそんなに変わっていないのだろうか。


「信護と市菜の顔が整ってるのは、血ってわけね」


「そう言う事だな」


「羨まし!」


 心南の言葉に、利光が頷いて賛同する。秀明からは羨ましいと言われた。その意味は全く分からない。


「信護君と市菜ちゃんの顔も、どことなく似てるもんね」


「そうか?」


「そうですかね?」


 桜蘭の指摘を聞いた俺と市菜は、ほとんど同時に同じような回答をした。そんな出来事に、俺たちは少し笑ってしまう。


「ははっ。……さて、と。お菓子もあらかた食べ終わったし、そろそろ再開するか」


「じゃあ私、部屋に行くね?」


「ああ。サンキュー市菜」


 俺がそう提案すると、皆がまたも頷いてくれる。市菜も母さんと同様、2階に行ってくれるようだ。


 こうして俺たちは勉強会を再開し、またテスト対策をし始める。そしてここから、勉強会はラストスパートに入ったのだった。

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