第26話


「どうぞ、入ってくれ」


 俺は自分の家のドアのカギを開けて、皆を家の中へと招き入れる。あの後俺たちは、外で昼食を済ませた。


 その足で、俺の家まで歩いてきたのだ。その時に、家にいるであろう母さんには、先に連絡しておいた。


「「「「「「「お邪魔します」」」」」」」


 俺以外の7人は、皆声をそろえてそう言ってくる。すると、奥から俺の母さんが現れた。


「おかえりなさい、信護。勉強会をするって聞いたけど……」


「ただいま、母さん。そうだけど、俺の部屋じゃ入らないから、リビングでやってもいい?」


「もちろんよ。さ、皆も入って入って」


 母さんにそう言われた美保たちは、俺に続いて靴を脱ぎ、家の中へと入ってくる。俺たちは母さんの後に続き、リビングにきた。


 家のリビングには大きな机があり、ここならこの人数でも勉強することができるだろう。それでも、ギリギリであることに変わりないのだが。


「じゃあ、私は出来るだけ邪魔にならないようにするわね」


「ありがとう、母さん」


 母さんは俺たちにそう告げて、リビングから出て行った。階段の音が聞こえてきたので、2階にある寝室に向かったのだろう。


「……綺麗な人だね」


「ん?そうか?」


 母さんが2階上がってから勉強の準備をしていた俺に、美保がそう話しかけてきた。母さんの容姿など気にしたことがなかったので、俺はそんな風に返す。


「いや、めっちゃ綺麗だろ。とても一児の母には見えないし」


「勝は何回も会ってるだろ」


「それでも、だよ。最初にお前のお母さんに会った時に言っただろ?お姉さんですか、って」


 勝のそんな指摘に、俺は過去を思い出す。そんなことあっただろうか。初めて会った時というと、中学1年生の時だろう。


 ……正直、全く思い出せない。俺の中では、そこまで残るものじゃなかったのだろう。


「全く覚えてないわ、その話……」


「お、俺もお前が母さんって呼ぶまで、お姉さんだと思ってたわ……」


「……俺もだ」


「マジか……」


 俺が勝に覚えていないことを告げると、秀明と利光も勝と同じことを思ったと言ってきた。当の俺は信じられず、そんな声しか出すことができない。


「信護君の顔は、お母さん譲りなのかな?信護君、整ってるもんね」


「まあ、確かに父さんにはそこまで似てないかもだが……。別に整ってはないだろ」


「いや、整ってるでしょ……。信護、か、カッコいいし……」


 桜蘭の言葉に対して俺が否定的な言葉を返すと、心南がそれを更に否定してきた。心南は視線を逸らしながらもそう言ってくれたが、流石にお世辞だろう。


「あ、ありがとう。お世辞でも嬉しいぜ」


「べ、別に、お世辞ってわけじゃ……!」


「お、おう……。そ、そうか。ありがとう」


 俺が礼を言うと、心南がお世辞ではないと返してきた。心南にそう言われた俺は、照れながらも改めて礼を告げる。


 こうも真っすぐにカッコいいと言われると、流石に照れるものがある。そんな俺の反応を見て、照花が笑みをこぼしていた。


「あははっ。それにしても、本当に綺麗なお母さんだね!昔から全然変わってない、って思えるぐらいに若く見えるよ!」


「それ、母さんに本人に言ったら喜ぶかもな。……でもお前、俺の母さんの昔の姿知らないだろ」


「だから言ったじゃん!思えるぐらい、って!」


 俺がそう照花に指摘すると、照花は笑ったままそう返してきた。皆もこう言っていることだし、皆が帰った後にお母さんに言ってあげよう。


 だが、今日は勉強会をするために俺の家に集まったのだ。勉強の準備も各々終わっているように見えるし、そろそろ雑談を止めて始めた方がいいだろう。


「確かに、思えるぐらい、だもんな。……さて、そろそろ始めようか。準備も終わったみたいだしな」


 俺が皆にそう告げると、一人一人のやる気はバラバラだが一応全員が頷いてくれた。そして俺たちは、期末試験に向けて各々の勉強を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る