第16話

 洗面所で手を洗い終えた俺たちは、1階にある部屋に向かった。その道中も、4人で手を繋いで歩いている。


「……この部屋でいいよね?」


 ある部屋の扉の前で、美保がそう俺に問いかけてきた。しかし、俺に顔を向けてくれない。


「お、おう。もちろんだ」


 俺がそう言って頷くと、美保はその扉を開いて中に入っていく。俺も引っ張られる形で、共に部屋の中に入った。


 部屋の中に入った俺たちは、お互いの手を離して適当な場所に座る。座ったはいいものの、美保は俺と視線を合わせようとしなかった。


 どうしたものか、と悩んでいると、隣に座った妃奈子ちゃんが俺のすぐそばまで寄ってくる。そして、俺に話しかけてきた。


「お、お兄さんは、美保姉さんとどんな関係なの?」


「ん?クラスメート、だな。学校の」


 妃奈子ちゃんがしてきた問いに、俺はそう答える。別に、隠すようなことではないであろうからだ。


 だが、そんな俺の答えを聞いた美保は体をピクリとさせて、俺から露骨に目を逸らした。さっきより明らかに、美保の機嫌が悪くなっている。


 俺は何か、間違ったことを言っただろうか。美保の機嫌を損ねるようなことは、言っていないと思うんだが……。


「そ、そうなんだ!恋人、ってわけじゃないんだね!」


「ああ。そうだな。家族ではあるけど」


「……家族?」


 俺がそう言った瞬間、美保が俺の方に目線を戻してきた。そんな美保に戸惑いながらも、俺は妃奈子ちゃんに言葉を続ける。


「お、おう。俺がパパで、美保がママ。そんで、まるちゃんが娘だ。ほら、家族だろ?」


「え、えっと……?」


 俺の言ったことに困惑した妃奈子ちゃんは、目線を美保へと向ける。そんな妃奈子ちゃんに、笑みを浮かべた美保が言葉を放つ。


「うん。私たちは、家族なんだ。まるちゃんが、パパ、ママって呼んでくれてね」


 美保は声もさっきより明らかに、明るくなっている。どうやら、美保の機嫌は直ってくれたようだ。


 損ねた理由も直った理由も分からないが、取り合えず戻ってくれてよかった。さっきのままだと、俺と話してくれないかもしれないし。


「ふ、ふーん……。家族だったから、なんだ……」


 そう呟いた妃奈子ちゃんは、まるちゃんの方に視線を向ける。そして、まるちゃんに声をかけた。


「……ねえまるちゃん。ママって、私じゃ駄目?」


「「なっ!?」」


 妃奈子ちゃんがした質問に、俺と美保が驚きの声を上げる。まさか、ここまで懐かれているとは。


 妃奈子ちゃんは、俺たちの関係が羨ましかったのだろうか。俺と美保とまるちゃんの、こんな関係が。

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