第76話
療心学園の中に戻った俺とまるちゃんは、すぐに長井さんの元に向かった。俺は、手当できる場所を知らないからである。
「長井さん!」
「あら?どうしたの?小田君。そんなに慌てて――」
「まるちゃんが転んで、怪我をしました!すぐに手当てを!」
俺がそう言うと、長井さんは目を見開いてからではあるが、すぐに動いてくれた。そして、救急箱を持ってきてくれる。
「見せて!」
「はい!」
俺はまるちゃんを下ろして、長井さんに預ける。長井さんはまるちゃんの怪我を見て、ホッと息を吐いた。
「大した怪我ではないのね。よかった」
「でも、痛いよぉ……。パパぁ……」
「大丈夫だ。ちゃんと治るから」
「そうよ~。今からちょっとしみるけど、我慢してね」
長井さんはそう言って、まるちゃんが怪我をしたところに消毒を施す。それによって、まるちゃんが顔を顰めるが、これは必要なことなので我慢してもらうしかない。
「っ……!うう~!」
「はい。じゃあ絆創膏を貼るからね」
まるちゃんの膝をティッシュでポンポンとした長井さんは、そこに絆創膏を貼った。これで、処置は終わりだ。
「これでよし!もう大丈夫よ!まるちゃん!」
「ふう……。大事にならなくてよかった……」
処置が終わって安堵した俺は、安堵の息を吐く。迅速に処置できたと思うので、急いでよかった。
「わー!ありがとう!」
まるちゃんは貼られた絆創膏を見てから、長井さんの方を向いてお礼を言った。まるちゃんはその後、俺の方を見てくる。
「パパも、ありがとう!」
「ああ。無事でよかった」
まるちゃんは笑顔で、そう言ってくれた。どうやら、安心したことによって、気持ち的に少し回復したようだ。
すると、インターホンの音が響いた。誰かが、この療心学園にやってきたのだ。
宅急便か何かだろうか。少なくとも、相手が誰であっても俺が出るべきではないだろう。
「ごめんない。ちょっと行ってくるわ。まるちゃんをお願いね?」
「はい」
長井さんは立ち上がって、それに対応しに行った。長井さんは療心学園の職員なので、当然の対応だろう。
俺とまるちゃんのいるところからは、長井さんと訪問者の声は聞こえない。だから、誰が来ているのかも分からないが、俺には関係のないことだ。
「そういえばまるちゃん。痛みはどうだ?」
処置をしても、痛みが消えるわけじゃない。顔を見る限りは大丈夫そうだが、実際のところどうなのだろうか。
「ちょっと痛いけど……。大丈夫!」
まるちゃんはそう言って、俺に笑顔を向けてくれた。どうやら、問題はなさそうだ。
「そうか、それはよかった」
「え!?警察の方ですか!?」
俺がそう言ってまるちゃんの頭を撫でようとすると、長井さんの声が聞こえてきた。長井さんは相当驚いたらしく、大きな声だ。
聞こえたのは、警察の方、というワード。なぜ、この療心学園に警察が来ているのか。俺には、皆目見当もつかなかった。
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