第64話

 クラブ対抗リレーの激闘を終えた俺と勝は、クラスのみんなが待つブースへと歩みを進めていた。するとその途中で、またも車椅子が見えた。


「……悪い勝。先に戻っててくれ」


「お、そうか。分かった」


「悪いな」


「気にすんなよ」


 勝はそう言って、俺の隣から離れていった。勝の姿が見えなくなってから、車椅子の方へと向かう。


「……生駒先輩」


「ああ。小田後輩。お疲れ様、と言うべきか、おめでとう、というべきか」


「どっちも言ってくださいよ……」


「そうだな。では、お疲れ様。そしておめでとう。前年のリベンジ達成だ」


「……ありがとうございます。先輩のおかげですよ」


 俺は生駒先輩に頭を下げて、礼を言った。正確に言えば、生駒先輩だけのおかげではないのだが、先輩の言葉がなければ、勝つことができなかっただろう。


「勝ったのは小田後輩、君だ。君の力だよ。しかし、礼は受け取っておこう」


 生駒先輩は、微笑みながらそう告げてくれた。そんな生駒先輩を見て、俺は照れてしまう。


 俺は、こんな生駒先輩に惚れたのだ。まあ、振られてしまったのだが……。


「さて、私はこれぐらいにしておこう。君には、仲のいいクラスメートもいることだしね」


 生駒先輩はそう言って、俺の前から去ろうとした。俺は最後に、生駒先輩に礼を言う。


「あ、あの!本当にありがとうございました!」


「……ふっ。カッコよかったぞ」


 生駒先輩はそう言い残して、今度こそ俺の前から去っていった。その言葉は、去年俺が言われたことでもあった。


 この言葉が、俺を勘違いさせた要因の一つなのだ。だが、俺はもうそれを、好きとは繋がらないことを知っている。


 これは、単なる誉め言葉か、または事実として言ってくれただけなのだ。それでも、たとえそうだとしても、喜んでしまうのは男故だろうか。


 俺は喜びながら、俺のクラスのブースへと戻っていく。ブースに着くと、クラスメートの皆が出迎えてくれた。


「「「「お疲れ様ー!」」」」


「ナイスファイト!」


「今年は勝に勝ったなー!」


「すごい追い上げだったね!」


「す、すごかった……!」


「おめでとー!信護君ー!」


 皆がそれぞれ、俺に声をかけてくれる。俺は感動しながら、皆に礼を言った。


「……ありがとう。皆」


「信護君」


 俺が礼を言った後で、美保が俺の名前を呼んだ。美保は微笑みを浮かべながら、続けてこう言ってくれた。


「お疲れ様。そしておめでとう。カッコよかったよ」


 奇しくもその言葉は、生駒先輩と同じ言葉で。俺が生駒先輩を好きになった、きっかけでもある言葉で。


 その表情で、その言葉を、躊躇いもなくいう美保が、とても美しく見えて。俺は思わず、そんな美保に、見惚れてしまった。

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