第58話
3度目の会場に来た俺は、またも審判の先生の元まで向かっていった。だが、心南の組の人たちは、もうすでに心南以外の全員がゴールしてしまっているようだ。
『お!高畑さんね!……ってあら!?またまた小田君!?』
その先生の言葉に、会場もざわざわとしだす。何かすいません。3度も来ちゃって……。
『さ、さて!気を取り直して……。高畑さんのお題は何なのかしら!?』
そう言われてマイクを向けられた心南だったが、中々言い出さない。そんな心南に、俺は問いかける。
「心南……?聞かれてるぞ?」
『えっ?あっ、す、すいません!』
「ううん!大丈夫よ!それより、お題を教えて?」
『は、はい……。そ、その、アタシの、お題は……』
心南はそう言って、俺の方をチラリと見た。そして意を決したように、マイクに向けて言葉を出した。
『……【気になる異性】、です……』
なるほど。心南のお題は【気になる異性】だったか。【気になる異性】、ね……。
……ん?え?は?き、【気になる異性】……?……はっ!?
き、【気になる異性】、だって!?それで、心南が俺を……!?
いやいやいや!嘘だろ!?そんなわけ……!
で、でも実際、心南は【気になる異性】で俺を連れてきているわけで……!いやでも流石に、心南が俺のことを好きなわけが……!
『あらー!!そうなのね!高畑さんのお題は、【気になる異性】!それで、なんで小田君なのかしら!?』
そんな俺の動揺などつゆ知らず、会場はヤバいぐらいの盛り上がりを見せている。そして心南は、先生の質問に顔を赤く染めながら答えた。
『あ、そ、その。中学時代はそこまで関わってなかったんですけど、高校になって関わるようになって、友達として、もっと知っていきたいなって……!』
『あらあらそうなのね~!うんうん!……うん?友達と、して……?』
『は、はい!そうです!今だったら、信護かなって……!そ、それだけです!』
心南は顔を真っ赤にしながら、そう告げた。だが、俺もそんな風に顔を真っ赤にしたいぐらい恥ずかしかった。
や、やっぱり、友達としてだよな!うんうん!そうだとは思っていたぞ!
だ、だが、少し、ほんの少しだけ、勘違いしそうになってしまった。もしかしたら、俺のことが好きなんじゃないかと。
俺は本当にこりていない。去年、勘違いしたばかりじゃないか。
『そ、そう……。じ、じゃあ小田君。選ばれて、どうかしら?』
『もちろん、嬉しいです。【気になる異性】に選んでもらって。俺もまだ心南の知らないところが絶対あるので、これからお互い知っていければな、と思います』
俺は無難に、そうまとめた。会場からは、ため息が聞こえてくる。お互い逃げたと思われたのだろうか。
だが恐らく、心南が言っていることは本当だろうし、俺も事実を言っただけだ。勝手に期待されても困る。
先生もまた呆れたようにため息を吐き、マイクを俺から自分の方に戻した。そして、借り物競争の終わりを告げる。
『はい。高畑さんもゴールよ。これで借り物競争は終わりです。次の障害物競走に出場する人は、準備をしてねー』
先生がそう告げると、ぞろぞろと借り物競争に参加した生徒たちが戻っていく。俺と心南も、それに続いた。
俺と心南は、他の生徒とは逆の方向に向かっていった。俺たちのクラスのブースまで戻るなら、観客席の方を通った方がショートカットになるのだ。
「ご、ごめん。あんなことになって……」
「いや、大丈夫だ。いい避け方だったと思うぜ。でもあれ、俺じゃなくてもよかったよな?」
「……ううん。信護しか、いないよ」
「ん?それって――」
「あ!いた!パパ~!」
心南の言葉に俺が聞き返そうとすると、聞きなれた声が俺の耳に聞こえてきた。俺は言葉を止めて、ギギギッと顔を向ける。
「まる、ちゃん……」
そこには、俺と美保の娘であるまるちゃんと、長井さんがいた。そこで俺は、美保の言っていたことを思い出す。
心南にはバレないようにしなければ、という言葉を。すでに心南の視界にはまるちゃんが入ってしまっている。
声も聞こえてしまっているのだろう。俺は潔く、諦めることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます