第56話
またも会場に連れてこられた俺は、照花と共に審判の先生の元へと向かった。足を動かしていたものの、俺はまだ動揺のさなかなのだ。
『はーい!1番乗りは羽木さんでーす!あら!?連れてきた人はまたも小田君ね!さて、お題は何かしら!?』
『はいはーい!私のお題は、【優しい人】、でーす!』
照花のその言葉で、俺はようやく動揺がなくなる。照花のお題は、【優しい人】、らしい。
【恋人】や【好きな人】などのお題ではなかったことで、まずは安堵する。まあそのようなお題だったら、俺を連れてくるのはおかしいのだが。
『【優しい人】、ね!じゃあ、なんで【優しい人】で小田君を連れて来たのか、教えてくれるかしら!?』
『私の中で、優しいエピソードが1番多いからですかね!私は彼以上に、優しい人を知りません!』
照花がそう言ってくれるが、そこまで言われると照れてしまう。できるだけ優しいように努めているので、そんな風に言ってもらえると嬉しいのだ。
『あらそうなの~!?じゃあ小田君。話を聞かせてもらおうかしら~?』
『あ、はい』
『まずは、【優しい人】で羽木さんに選ばれて、どうかしら?』
先生がそう質問してきたので、これも素直に答えることにした。別に、問題ないと思ったからだ。
『とても嬉しいです。そう思ってくれていて』
『そうよねそうよね!それで、小田君はなんで羽木さんに優しくするのかしら~!?』
『いや。別に、照花にだけ優しくしてるつもりはないですよ』
『あら!?名前呼び!?で、でも、羽木さんにだけ優しくしてるつもりはない……?そ、そうなの?羽木さん』
俺の答えに、先生が困惑している。もしかすると、名前で呼ばない方が良かっただろうか。
『あはは……。信護君は、誰にでも優しいですよ~。だから、【優しい人】で連れて来たんです』
先生の質問に、羽木は苦笑しながら回答した。そんな羽木の答えに、先生は不満そうながらも納得してくれたようだ。
『そ、そうなの……。もちろん、ゴールよ……』
「やったー!1着だよ!ありがとう信護君!」
「おう。やったな」
俺たちのゴールは無事認められ、見事1着を獲得した。今野の時と同じく、1着の旗のところまで移動する。
「しかし、こっちの方に来たときはビビったよ。もしかしたら、まずいお題を引いてしまったのかと思ってさ……」
「あー……。そうなんだ。ごめんごめん。でも、私的にはこのお題もまずかったよ~」
「そうなのか?まあ、何とかなってよかったよ」
「うん。そうだね」
だから、くじを引いた時に固まっていたのか。しかし、何がまずかったのだろう。
考えられるのは、迷ったパターンぐらいか。選ばれた俺と、彼氏である勝。
それで俺が選ばれたということは、バレるリスクを軽減したかったのだろうか。そう考えるのが妥当だ。
「それより、この後は心南ちゃんの番だね~。いいお題を引ければいいけど……」
「そうだな……。頑張ってほしいよ」
そんな風に話していると、照花の組の借り物競争の終わりが告げられた。俺たちはその場から立ち上がり、会場を後にする。
俺と照花は戻るべきところも同じなので、並んで歩く。その間も、やはり体育祭の話になった。
「大丈夫かな~……。心南ちゃん」
「まあ、祈るしかないよな……。しかし俺、これで借り物競争2回目の出勤か……」
「あはは。ごめんね。でも、出勤って……!」
俺の言葉に、照花が笑ってくれる。しかし、同じ人が借り物競争で2回も連れていかれるのは、珍しいことではないだろうか。
まあ、体育祭に参加しているという思えるので、文句はないのだが。俺自身は、2回も連れていかれるとは、思っていなかった。
まあ、まだ借り物競争は残っている。流石に3回も連れていかれるとは思えないが、精一杯応援することにしよう。
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