第46話


「私が勝君を好きになったのは、勝君が私を助けてくれたからなんだ~」


「柴田君が、照花ちゃんを……?」


「そう、なのか……?」


 その話が初耳だった俺と美保は驚いて、勝に本当なのかどうか問う。そんな俺たちの言葉を聞いた勝は、照れながらも答えてくれた。


「ああ。まあ、な。と言っても、ナンパから助けただけだが……」


「「……ナンパ?」」


「そ。ナンパ」


 まさか勝が、羽木をナンパから助けていたとは。一体いつ、どこでの話なのだろうか。


「結構しつこくて……。腕を掴まれた時に、勝君が助けてくれたの」


「そ、それっていつの話なんだ?」


「中学2年の時だな。冬だったのは覚えてるんだが……」


「中学2年の2月14日だったよ。場所は岐阜駅前だね!」


 俺の質問に、勝は思い出そうとするが、その前に羽木が答えてくれた。食い気味にそう言ってきた羽木にとっては、それほど重要な思い出なのだろう。


「あ~!確かにそうだったな!お礼にチョコも貰ったっけ!」


「そうそう!バレンタインデーだったしね!」


「な、なるほどな……」


「し、柴田君は、どうやって照花ちゃんを助けたの?」


 美保がそう、勝と羽木に聞いた。それは、俺が気になっていたことでもあった。勝はどんなふうに、羽木を助けたのだろうか。


「えへへ~。その時の勝君がね、かっこよくてね~!ガシッと相手の腕を握って、『俺の彼女なんですけど』って~!」


「お、おう……」


「そ、そうなんだ……」


 ノリノリで話す羽木に、俺と美保はそんな反応しか返せない。どうやら、ガチ惚れのようだ。


「そこから意識するようになって~!二人で出かけたりもして~!その1年後の中学3年のバレンタインデーで告白したの~!で、そこから付き合い始めて~!それから――」


「も、もうやめてくれ照花!恥ずかしいだろ!」


 どんどん話していく羽木を、ついに勝が止めた。俺としても、もうおなかいっぱいだ。


 正直、ブラックコーヒーが欲しいぐらい甘い話だった。というか、ナンパから助けて始まる恋愛とか、ラノベか!と言いたい。


「えー……。まだこれからでしょ~?」


「い、いや、もういいぞ……」


「う、うん。照花ちゃんが柴田君をどれだけ好きかは、よく分かったから……」


 まだまだ話そうとする羽木を、俺と美保がそろって止める。どうやら美保も、俺と同じ気持ちだったようだ。


「そう?でも――」


「そ、それより!なんで、隠してたの?」


 それでも止まろうとしない羽木に対して、美保が話を変えるために質問をした。だが、その質問は確かに気なるものだった。


 ただ付き合うだけなら、別に隠さなくてもよかったはずだ。なのになぜ、俺たちにすら隠していたのだろうか。


「あー……。そ、それはね……」


「からかわれたくないって言うのがあったんだ。俺も照花もだけど」


「……あ。そ、そういえばあの時期、そんなのあったね……」


 勝の説明に、美保が思い出したようにそう言う。そう言われて、俺も思い出した。その時期は確かに、付き合ったばかりのカップルがいじられるというのがあった。


 だから勝と羽木は、付き合っているのを隠していたのか。なら、今まで隠してきた秘訣を聞いておきたい。


 理由は違えど、俺と美保もこれから隠していくのだから。まるちゃんも含めた、家族関係を。

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