第22話
「……やっぱり、姉ちゃんを狙ってたんだな!この野郎!二人から離れろ!」
純也君が睨みつけたまま、俺たちに近づいてくる。俺は純也君の言う通り斎藤とまるちゃんから離れようとしたが、まるちゃんの手がそれを阻止した。
俺の服をキュッと握り、俺が離れないようにする。まるちゃんの力では、俺を完全に止めるには至らない。
だが、まるちゃんがそれをやるだけで、俺は離れられなくなる。まるちゃんが悲しむようなことは、今の俺には出来なかった。
しかし、純也君にはそんなことは関係ない。俺の傍まで来て背中から引っ張り、斎藤とまるちゃんから引きはがそうとしてくる。
「離れろって言ってるだろ!この!」
そう言って何度も引っ張ってくるが、正直全く動かない。そこはやはり、まだ子供といったところだろう。
「ち、ちょっと!やめなさい純也君!」
「なっ!?何すんだよ!」
そんな純也君を、長井さんが止めてくれる。だが、純也君の言葉は止まらない。
「なんで部外者のそいつがパパなんだよ!ママだって、姉ちゃんじゃないだろ!他に大人の人がいっぱいいるじゃん!」
「……あ?」
俺は斎藤とまるちゃんから自分から離れようとする。まるちゃんがそれを、さっきみたいに手で止めてきた。
だが、俺はまるちゃんの頭を撫でて、大丈夫だということを伝える。俺に撫でられたまるちゃんは、不安そうな顔から嬉しそうになった。
そんなまるちゃんを斎藤に任せ、俺は長井さんに捕まえられている純也君の元へと向かう。さっきの言葉が、許せなかったのだ。
「おい。何言ってんだお前」
「だ、だってそうだろ!姉ちゃんを親になんて!お前なんて、意味分かんないじゃんか!」
「まるちゃんが望んだんだ。それの何が悪い。斎藤だって迷惑に思ってない。なあ?」
俺はそう言って、斎藤に問いかける。恐らく純也君は、斎藤のことが好きなのだろう。もしかしたら初恋なのかもしれない。
そう思えば、少しかわいそうに思えてくるが、ここは斎藤の口から言ってもらうのが一番効果があるはずだ。斎藤に言われたら、文句など言えなくなる。
「……うん。私は、喜んでまるちゃんのママをしてるよ。小田君がパパなことも納得してるし、不満なんてない」
「え……。そ、そんな……。なんでだよ、姉ちゃん……。そんな、好きでもない奴と……」
「……え?私、小田君のこと好きだよ」
「「……えっ!?」」
斎藤の想定外な言葉に、俺と純也君が驚いて声を出す。純也君は泣き出し、俺は顔を真っ赤にさせた。
純也君は泣きながら、この場から走り去っていった。長井さんは慌てながらも、俺たちに頭を下げてから純也君を追っていった。
「さ、斎藤。お、俺のこと、す、好きって……!?」
俺は斎藤の方に向き直り、顔を赤くしたまま斎藤に問いかける。好きだと言われた真偽を確かめなければ。
いやでも、斎藤には彼氏がいるはずだし、俺のことが好きなんてことは……。でも、彼氏は別に好きってわけじゃとも言ってた気が……。あ、あれ?分からなくなってきた……。
「あ、そ、その、ああ言っておけば、家族でいれるかなって……!べ、別に恋愛的な意味で言ったわけじゃなくて……!」
「あ、そ、そうだよな!うん!」
そ、そりゃそうだよな!彼氏がいる斎藤が、本気で言ってるわけがない!少しでも期待した自分が馬鹿に見えてくる……。
「ママ、パパのこと好きじゃないの……?」
「えっ!?う、ううん。好きだよ~。パパだもんね~……」
「そうだよね!よかった!そ、それと……。パパとママはずっと、まるのパパとママでいてくれる……?」
斎藤の答えにまた笑顔になったまるちゃんだったが、また不安な顔になる。純也君に言われたことを、気にしているのだろうか。
「……ああ。まるちゃんが望む限り、俺はパパでいるよ」
「……うん。私も、まるちゃんが望むなら、ママでいるからね」
「パパ、ママ、ほんと?」
「もちろん。俺たちは、家族だろ?」
俺はまるちゃんを安心させるように、笑顔を浮かべてそう言う。斎藤もまた、笑ってくれていた。
「……うん!パパ!ママ!」
「ふふっ。手、繋いで行こっか?」
「そうだな。行こうまるちゃん」
「わーい!」
俺がまるちゃんの右手を左手で握り、斎藤が右手でまるちゃんの左手を握った。俺たちはそのまま歩き出した。家族のように。
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