第103話 最後の晩餐

エルヴィン「やぁエンキ、おはよう。気分はとうだい?」



ボンヤリと白い天井が見える。



ボヤけた茶色いフワフワがだんだんとエルヴィンに見えてくる。





エンキ「。。。エル。。ヴィン?」



エルヴィン「そうだよ!君は本当に変わらないね。」



生命維持装置による眠りから目覚めたエンキはしばらくボンヤリとしていた。



患者衣かんじゃいも殆ど劣化が見られず真新しいままだった。



エルヴィンは装置の上にチョンと乗ってエンキの方を見ている。



エルヴィンも見た目は全く変わらない。



エンキからすれば眠っていたのはほんの数時間にさえ思えた。





エルヴィン「あれから本当に色々あったよ。」



エルヴィン「ナノマシーンの制御は最初の10年でかなり惜しいところまで行ったんだ。」



エルヴィン「でも、その後ドナルド・ニクソン大統領が亡くなって。。。」



エルヴィン「それから程なくナノマシーン研究機関は反対派に飲まれて閉鎖されてしまったんだ。」



エルヴィン「食肉の製造と絶滅種の保存の為にかろうじて一部の施設と君たちの生命維持を確保してたんだけど。。」



エルヴィン「時間だけが過ぎてしまった。。」



少しの間、沈黙が二人を包む。



エンキ「私は一体どの位寝ていたの?」



エルヴィン「え?。。あぁ、ちょうど100年だよ。」



エンキ「100年?。。。そんなに。。。」



エンキは驚きを隠せない。



エルヴィン「でも、いろんな事もわかったんだ、アヌの事も。。」



エンキ「アヌの。。?」



エルヴィン「彼はきっとまだ生きている。」



エンキ「。。。え?」



一瞬、エンキは耳を疑った。



アヌは確かにエンキ達の目の前で消滅したからだ。



エンキ「まさかそんな。。?」



エルヴィン「この空を覆うベールはあの時アヌが放ったオーラそのものなんだ。」



エンキはアヌの消え去る瞬間を思い出した。



エンキの目が涙で潤む。



エルヴィン「あの時、アヌの肉体は滅んでて、オーラのみで外見と精神を保っていた。」



エルヴィン「そのオーラはまだ消えていない。」



エルヴィン「氷河期が終わらないのがその証拠だよ。」



エルヴィン「つまり心はまだきっと空にあるんだ。」



エンキは黙ったまま頷いた。



エンキ「そうね。。。それで今日はどうしてコールドスリープを解除したの?」



エルヴィン「うん。。実は。。」



エルヴィン「僕らは1区、つまりアメリカを離れようと思うんだ。」



エンキ「それは。。。どうして?」



エルヴィン「まぁ、1区にとってはオイラ達はもうお払い箱なのさ。」



エルヴィン「それより新設区の中にはまだまだオイラ達を必要としている区が沢山あるんだ。そこで今度こそナノマシーンの研究を再開したいんだ。」



エンキ「それじゃぁ何処に?」



エルヴィン「55区、ブラジルだよ。」



エンキ「ブラジル。。。私、ポルトガル語はちょっと。。」



苦笑いするエンキ



エルヴィン「大丈夫だよ。昔のブラジル人はもう殆どいないんだ。今はほぼ元アメリカ人だよ。」



その一言には南米でどの位の大量死があったのかを物語る重さがあった。



エルヴィン「ま、今日はエンリルも起こして久しぶりに皆で語り明かそうよ。」







その日は夜遅くまで語り明かした。



エルヴィンにとっては久方ぶりの家族の団らんであった。



そして夜が明けた。



エルヴィンは二人を連れてかねてより結託していた55区のカプセルにある新設のナノマシーン研究所にテレポーテーションした。



そこでまた、エンリルを生命維持装置に入れた。



暫くエンキと研究所立ち上げに尽力したがその後、エンキもコールドスリープさせた。



その夜、二人の生命維持装置の前でエルヴィンは寂しそうに佇んでいた。



エルヴィン「。。。。」





そしてそのまま700年近い気の遠くなる様な時間が流れた。



生命維持装置の寿命が来てエンキはコールドスリープが強制解除されて目が冷めた。



装置から出てみるとそこは廃墟と化した建物の中だった。

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