第40話 不思議な壁
海の底にあるその巨大な泡のような透明の球体は街一つを丸々その内側に内包し、尚余りあるほどの大きさだった。
そしてその外壁は透明だが触れることは出来ず、触ろうとしても何か空間ごと歪んでいるかのようにグニャリと魚眼レンズかもっと強力な画像編集ソフトで渦巻にしたように抵抗もなく伸びきる。
だからと言って何も感じることなく空間ごと曲がっているようなただ『歪む』のである。
そして決して中へは入れない。
そんな不思議な膜に覆われたそのドームの内側は、遠く中央あたりに丘があり、そこに積み木を積んたピラミッドの様な直線的な神殿が光り輝きそびえ建っているのが壁の外からでも解る。
その周りを街が囲みさらにその周りに自然豊かな風景が広がる。
と、まるで瓶に入れられたジオラマの様に美しく収まっていた。
そしてショウ達がやってきたのはその唯一の入口、『女神の門』と呼ばれる特殊な結界が貼られた場所だ。
その重厚な石造りの高さ5メートル程の門の内側は異世界にでも繫がっているかの如く真っ黒で何も見えない。
中のゆったりとした風景にも周りの海の光る海底と背の高い海藻に囲まれた幻想的な風景にも全く調和せずに異彩を放っていた。
そんな不思議な門の前にアナトを先頭にショウとミネルバ、そして三人の人魚達が舞い降りた。
ショウ「こ、これは。。?」
アナト「ここが女神の門だ。我が女神に愛されぬ者は決して通ること能(あた)わぬと言う鉄壁の結界だ。」
ショウ「ふーん。。この透明の壁の方は何か通れそうなのにな。。?」
ショウが壁を間近で見ようとした時だった。
ショウ「うわ!何だ!?急にアナトが小さくなったぞ!?」
壁を覗き込んだショウの顔と壁に触れている部分が歪んで壁の外側に沿って5メートルほどグニャリと伸びて女神の門と同じぐらいになった!
ミネルバ「ええええ!!??」
ミネルバ「tamori!!ちょっとそれ大丈夫なんですの!?」
ショウ「いや、何ともないけど?」
答えるその顔は湾曲した金属に映り込んだ顔の様に不格好に伸び切っていた。
ミネルバ「アハハハ!酷い顔ですわよー!」
ショウ「何笑ってんだ??」
ショウがそのまま壁に溶け込むと風船に描かれた絵のように広がった。
そしてマーブル模様の様にグニャリと歪んだ。
顔は縦に伸びお尻あたりは横に伸びた巨大でグニャグニャの『ハクション大魔王』の様な姿にミネルバは
ミネルバ「あなた鏡で自分の姿をご覧なさいよ!とってもブサイクですわよー!」
人魚達もクスクスと笑っていた。
ショウ「何気に酷いこというなよ!それよりお前らそんなに歪んで大丈夫か!?」
逆にショウからはアナト達が歪んで見えてい様だった。
アナト「いい歳をして遊ぶな。大人しく兄様を待っていろ。」
アナトはヤレヤレと言った感じで冷たい視線を送った。
ショウ:。。。うわぁ。。アナトの視線が痛いー。。
ショウ「ハイ。すいませんしたー。。」
と、すごすご壁から出てきた。
ショウが壁から出てくるとその体は何事もなかったかのように元のサイズに戻った。
ショウ「不思議だなぁ。。」
ミネルバ「あー可笑しい。。一体どうなっているのでしょう??」
ミネルバも手を入れてみるとやはり手が大きく引き伸ばされた。
ショウ達が首を傾げているとアナトが突然反応して振り返り上を見た。
アナト「来た。」
するとアナトの視線の先に見えないほど小さくバアルと剛本が人魚を二人従えてこちらに向かっているのが見えた。
案の定、剛本は恥ずかしそうに人魚に手を引かれている。
一方のバアルは水中だと言うのにまるで空気中であるかの如くなんの抵抗もなく飛んできた。
バアルはショウ達の近くにフワリと降り立つと
バアル「剛本君。こちらへ。」
剛本「あ、ああ。」
やけに素直に従う剛本にショウは驚いた。
バアル「皆が揃った所でこれからイシュタラの国で絶対にしてはならない事を話す。」
バアル「イシュタラの国ではこれを固く守っている。この門を一歩入れば必ずこれは守ららなければならない。」
バアル「守らなければ当然拘束されて懲罰の対象になる。」
そう言うと空気が変わった。
バアルの真剣な表情にショウは息を飲んだ。
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