第39話 人魚の群れ

アナトの周りをぐるぐると回るのは6メートルはあろうかと言う巨大なホオジロザメだった。



そしてその口の中にはショウがスッポリ胸まで収まっていた。



そしてそのサメの後ろをショウの近くから離れられない『設定』の具現化したNPC、ミネルバが紐でも付いているかの様に引っ張られて振り回されていた。



ショウを噛みきろうとサメが首を振り回すとショウの上半身はブラブラと激しく水中を舞った。



ショウ「ぎゃぁぁぁ!!ゴボゴボゴボゴボ!オエー!!」



ショウの口から何か見てはならない物か溢れ出てミネルバの方へ流れる。。。



ミネルバ「いゃぁぁぁ!!ゴボゴボゴボゴボ」



必死に逃げるミネルバ。



二人の水中で声にならない悲鳴が虚しくゴボゴボ言っていた。



それを見てアナトが叫ぶ。



アナト「チビ太!!やめなさい!!」



水中に声が響く。



勿論本当の声ではない。



直接会話と同じ思念派の様な物だが声の様に近くの全員に聞こえる。



するとどうだろう。



サメの動きがピタリと止まった。



ゆっくりとアナトにすり寄る巨大なホオジロザメ。



ショウ:と、止まった?



グッタリするショウ。



アナトはサメの頭をなでながら言う。



アナト「チビ太。。ホントに仕様がないヤツだ。変なモノ食べるなといつも言ってるだろう?」



ミネルバ:チビ太。。。?



サメはアナトの方を見て残念そうにショウをペッと吐き出した。



ショウ「はぁぁ。。助かった。。」



見るとアナトの足は赤いウロコの人魚の様になっている。



白い翼もそのままの天使の様な人魚の様な姿にショウは少し見とれてしまった。



アナト「すまない。こんな仕打ちをしたのにチビ太を傷つけずにいてくれた事に感謝する。」



ミネルバ:チビ太。。。?



ショウ「あ、ああ。。」



はっと我に返るショウ。



ショウ:いや、魔法詠唱ポーズが取れなかっただけなんだけど。。



ショウ「あははは。。随分懐(ずいぶんなつ)いているんだな。。。」



アナト「まあな。」



サメを撫でながら少し嬉しそうなアナト。



アナト「イシュタラの国はもうそこだ。」



ショウが海底の方に目を向けると遠くの方に眩いばかりの光が広がっているのが見えた。



海底が光っているのだ。



それは夜空に満天の星々を見るよりも尚、見る者を引き込まずにはいられない程の幻想的な光景だった。



ショウはその方向に吸い込まれる様に泳ぐと



アナト「私が引こう。」



と、アナトはショウの手をとって引っ張って游いだ。



スピードがグンと上がりみるみる海底に近づく。



光はどんどん近づいて全貌がハッキリしてきた。



まず真ん中に光り輝く透明のドーム状の泡のような巨大な球体がある。



そしてその周りに光る苔のようなものが一面に広がっていてその上を背の高い海藻が生い茂っていた。



まるで間接照明の様に下から海を照らしている。



そこには魚たちが住まい、命が育まれている。



この辺りの海は元々上下の海水の循環が殆どなかったので深いところは空気もなく魚が住めなかった。



そこに温泉が湧き、さらにイシュタルが光を与えた。



植物が根を下ろす事で酸素が生まれ、海底火山からのミネラルも含み、魚が集まる場所となっていた。



しかもここの水は殆ど汚染されていない。



さらに近づくと中央のドーム状の『泡』の周りには近づくと岩が沢山あり、そこには多数の人魚の姿が見えた。



そしてアナトに気がつくと人魚の群れが一斉に集まってきた。



ショウ「わ!わ!人魚!?」



美しい人魚達にあっ言う間に囲まれた。



その数なんと200以上だ。



アナト「見た目は華やかだがここの守護者(ガーディアン)達だ。単騎でもチビ太より強いぞ。」



ショウ「そ、そうなんだ。。」



ミネルバ「tamori、なんか嬉しそう。。」



と、冷たい視線のミネルバに



ショウ「そ、そんな事ないさ!」



と、ショウは取繕(とりつくろ)った。



すると隊長の様な人魚が



人魚の隊長「アナト様、おかえりなさいませ。」



と言うと一斉に他の人魚達も



人魚達「おかえりなさいませ!!」



と、声を合わせる。



ショウは圧倒される。



人魚の隊長「お久しゅうございます。」



アナト「うむ。兄上は戻られたか?」



人魚の隊長「いえ、まだにございます。バアル様もこちらにお戻りになられるのですか?」



アナト「待ち合わせをしている。」



それを聞くや他の人魚達は目をときめかせてざわめくが



人魚の隊長「静まれ!アナト様の前だぞ!」



隊長に一括入れられて途端に静まり返った。



深々と頭を下げる人魚の隊長。



アナト「女神の門にて兄上を待つ。」



人魚の隊長「畏まりました。」



人魚の隊長「ローレライ、メロウ、メリュジーヌ。お供を!」

 

三人の人魚「はい。」



呼ばれて三人の人魚が前へ出る。



利発そうなローレライ



小さな魔法の帽子をかぶったメロウ



気の弱そうなメリュジーヌ



3人とも正に人魚と言わんばかりの美しさだった。



アナト「いらん。」



そう言われて困った様子の隊長。



人魚の隊長「。。。そう言う訳にも。。」



アナトは少しため息をついて答える。



アナト「好きにしろ。」



人魚の隊長「はっ!ありがとうございます!」



人魚の隊長「お前達、丁寧にな。」



三人の人魚「はい!」



そしてアナトにはローレライ、ショウにはメロウ、ミネルバにはメリュジーヌが付いて女神の門へ向かった。



アナト「いくぞ。」



と、早々に泳ぎ始めるアナト。



ショウ「あ、ああ。」



置いて行かれそうになるショウに優しくメロウが



メロウ「こちらへ」



とショウの腕を取って先導した。



ミネルバにもメリジューヌが同じように付いて引っ張った。



夢見心地のショウにミネルバは不機嫌な様子。



そんな二人をよそにアナトは久し振りの故郷に胸踊っていた。



尚、人魚の群れの中に一匹だけ人面魚が混じっていた事を補足しておく。

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