番外編 ウルザとレヴィエナの冒険 ⑤


 無法者らを片付けたウルザとレヴィエナは、大通りに近い場所に宿を取った。

 先ほどの一件から、この国の治安がいかに信用できないかはわかっている。できるだけ品が良くて安全そうな宿を選んだ。

 貴族御用達の宿屋は店構えも値段もかなり高級だったが、おかげで今晩はゆっくり眠ることができそうである。流石にここまでは無法者も押しかけてはこないだろう。


「さて……ようやく王都にたどり着きましたけど、これからどうしますの。レヴィエナさん」


 シャワーを浴びて砂漠でかいた汗を落とし、レヴィエナとウルザはベッドに腰かけて今後の方針について話し合う。

 2人が着ているのはバスローブのような寝間着である。宿屋の備品であるそれは香油が染み込んであるのかフローラルな香りが漂ってくる。

 身体のラインが浮き彫りになる服装によって2人のスタイルの差も如実に明らかになっている。ウルザは寸胴でまるで凹凸がなく、レヴィエナは驚くほど起伏に富んでいた。

 一見して無防備に見える格好をしているウルザとレヴィエナであったが……彼女達の手の届く場所には愛用の武器が置かれている。仮に敵が部屋に飛び込んできたとしても対抗できるようになっていた。


「そうですね……やはり神殿について調べなくてはいけませんね」


 ウルザの問いに、レヴィエナは少しだけ考えて応えた。


「この国の治安悪化の根本原因が神殿にあるのは間違いありません。やはり、ご主人様の見立ては正しかったようです。導師ルダナガは『黒』……我が国に悪党を送り込んだのもこの男でしょう」


「うーん……ウルザは難しいことはよくわからないですの。でも、ご主人様の敵だったら誰だって潰しますのー」


 レヴィエナの説明にウルザが興味無さそうに答える。

 アイテムボックスから取り出した保存食の肉をモシャモシャと齧り、胃袋の中に詰め込んでいく。

 宿屋の食事には手を付けていない。いくら貴族御用達でまともそうな宿とはいえ、この国は2人にとって敵地である。信用できない人間が用意した食事を口に入れるつもりはなかった。


「気になるのは……やはり人身売買の噂ですよね。神殿が子供や女性の売り買いをしているというのもおかしいですし……それに以前、我が国で悪さをしていた悪徳貴族も子供を攫っていました。単なる金目当ての犯行とは違うような気がしますね……」


 ひょっとしたら、神殿は何らかの理由で子供を集めており、そのために他国から攫ってきたり、人身売買を行っているのではないだろうか?

 子供を何のために集めているのか……その理由は判然としないが、売り買いや誘拐してまで集めているだけあって、あまり良い利用目的ではあるまい。


「ご主人様に要報告ですね。明日からでも神殿に探りを入れてみましょうか」


「ウルザは戦うことしかできませんの。レヴィエナさんの指示に従いますの」


 作戦会議とはいったものの……ウルザは全く頭脳労働はできないタイプである。レヴィエナの考えに異論をはさむことは一切ない。

 会議とは名ばかり。実質的にはレヴィエナの考えを伝える場でしかなかった。


「あむあむ……レヴィエナさんも食べますの?」


「……いただきます」


 早々に会議を終えた2人は顔を合わせて干し肉を噛み続けた。


 ともあれ……明日以降の方針は決まった。

 主人であるゼノンが王都に到着するまでに、少しでも神殿と導師についての情報を集めなくてはいけない。


 宿屋で一晩を過ごす2人は知らない。

 ゼノンがこの国の王女と遭遇して、王都と全く別方向に向かって旅をしていることも。

 彼らの知らない場所で導師ルダナガ……その配下と戦うことになっていることも。


 シャクナとリューナ。

 マーフェルン王国の王女姉妹。翡翠の宝玉のごとき輝きを持った美貌の乙女。

 2人の強力なライバルが登場して、ゼノン・バスカヴィルの寵愛を巡る女の戦いがさらに過熱化していくことになるのだが……。

 2人はまだ、そんな未来は夢にも想像していなかったのである。






――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければフォロー登録、☆☆☆の評価をお願いします!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る