第70話 限界のさらに先


 『不死蝶』――バタックス

 『賢陣』――ランダリオン


 2体の悪魔はいずれも強敵。

 まともに戦えば苦戦は免れないはずのボスモンスターだった。

 同時に相手をするとなれば尚更に危険な相手。下手をすれば……否、下手をしなくても、命を落としかねない危機的状況である。

 だが……


「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」


『シャアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 漆黒のオーラを身に纏い、俺は目の前にいる蝶の羽を生やした大蜥蜴――バタックスに斬りかかる。

 バタックスが蝶の羽からキラキラと輝く鱗粉をまき散らす。吸い込んだら大ダメージ確定の猛毒の鱗粉であったが、【状態異常無効】のスキルを有した俺には効かない。

 鱗粉を全身に浴びながらバタックスの懐に飛び込んだ。


『ハアッ!』


 剣の一撃で極彩色の片羽を斬り飛ばす。

 しかし、バタックスは名前の通りに『不死蝶』。斬り落としたはずの羽がすぐさま再生を始める。


「鬱陶しい! そのまま死んでいいぞ!」


『シャアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 再生しながら抵抗するバタックスに容赦なく斬撃を浴びせかける。

 刃の雨を浴びたバタックスがバラバラに切り刻まれ、青色の血を流しながら床に倒れた。

 不死身の悪魔はそれでも再生しようと残骸がもがいているが……俺はダメ押しで魔法攻撃を放つ。


「上位闇魔法――ゲヘナフレイム!」


『ギシャアアアアアアアアアアアアアアッ!?』


 漆黒の業火がバタックスを包み込む。

 オーバーリミッツの発動中は物理攻撃のみなら、魔法攻撃も強化される。

 威力がブーストされた闇の炎がバタックスの拙い抵抗を押さえつけ、その身体を焼いていく。


『ギャゥッ! ギャアッ! ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 黒い炎の中で不死身の悪魔がもがいているが……それを無視して、俺はもう一方の敵へと向き直る。


『RyUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!』


 俺が振り返ると同時にもう一方の悪魔――ランダリオンが魔法攻撃を放ってきた。


 複合属性上級魔法――レインボーミサイル

 火、水、風、土、光、闇、無。七属性の光弾がこちらに向けて一斉に飛んでくる。


「黒狼斬!」


 俺は眼前に迫る7つの光弾を魔法剣で相殺した。

 打ち漏らした2発の弾丸が俺の肩をえぐって鋭い痛みが走るが、構うことなく地面を蹴る。


「フッ!」


『RYAAAAAAA!?』


 魔方陣から生えた牛頭を斜めに斬り裂く。

 牛の額からブシャリと血液が噴き出すが、ランダリオンは怯むことなく魔法で反撃してくる。

 ランダリオンの前方に白い魔方陣が出現し、そこから純白に輝く刃が撃ち出された。


 光属性上位魔法――ホワイト・ジャベリン


 闇属性の俺にとっては弱点となる属性だったが……俺は噛みつくようにして吠えた。


「闇属性上位魔法――ブラック・ジャベリン!」


 放たれる闇魔法。

 ホワイトジャベリンの対になる魔法の発動により、俺の周囲から黒い刃が射出された。白と黒の2種類の刃が正面から激突する。

 相反する属性の魔法攻撃がぶつかり合い、対消滅を引き起こす。

 激しい魔法の応酬に勝利したのは……俺が撃ち出した闇魔法である。


『RyUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!?』


 光魔法を打ち崩した闇の刃がランダリオンへと突き刺さる。

 牛頭を生やした魔方陣の形をした悪魔から苦悶の声が漏れた。


「そのまま死んどけ!」


『RyaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAp!?』


 ダメ押しで斬りつけ、さらにランダリオンにダメージを重ねていく。


「すごい……」


 俺の戦いを少し離れた場所から見守っていたシャクナが呆然としてつぶやく。

 苦戦するだろうと予想していたのに、思わぬ善戦をしている俺に驚いたのだろう。


「うん、強いね。ちょっと強すぎるくらいだ」


 シャクナの隣で、サロモンも興味深そうにつぶやいている。


「選ばれた戦士だけが使える奥義、魂の解放である『オーバーリミッツ』。それを使えることは別に驚かないけど……あの強さはちょっと異常だね。僕の予想を上回っている」


 サロモンの言葉を遠くに聞きながら……俺もまた、自分の身体から湧き上がってくる力に驚いていた。

 オーバーリミッツの発動中は潜在能力が全開放されてとんでもない力が発揮されるのだが……今はこれまでにないくらい力が湧いてきている。

 自分ば自分でなくなっているような感覚。万能の神にでもなったような気分だった。


「そうか……怒りと殺意が彼の力をブーストしているのかな? オーバーリミッツは魂の開放。彼のオーバーリミッツは明らかに闇というか暗黒の属性。負の感情が膨れ上がったことで威力が強化されたみたいだね」


「解説ありがとうよ! 奥義――獄炎龍破!」


『RyaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAYWYHWHHNEAR!?』


 オーバーリミッツの残り時間が切れる寸前、俺は渾身の一撃を放った。

 黒い炎の斬撃がランダリオンの異形を真っ二つに斬り裂き、そのまま黒い炎で焼き尽くしていく。

 同時にオーバーリミッツが解除される。身体を包み込んでいた漆黒のオーラが消失する。


『グギャアアアアアアアアアアアッ!』


「ああ……お前も生きていたんだな。無駄に苦しめちまって悪かったな」


 俺の背後から地獄の炎に包まれていたはずのバタックスが噛みついてきた。

 バラバラに斬り刻まれて炎に焼かれ、それでも再生して襲いかかってくるとは恐るべき再生能力である。


「だけど……さすがにそろそろ限界だよな。底が見えているぜ?」


『グガアッ!?』


 噛みついてきたバタックスの口の中に剣先を押し込む。鋭い切っ先が大蜥蜴の喉から首の後ろまで貫通した。

 ジタバタともがいて剣から逃れようとするバタックスであったが、その全身には黒い焦げ跡がついている。

 さすがの再生能力にも限界がきているようだ。不死身の悪魔の命が尽きようとしているのがわかった。


「ほらよ、経験値を譲ってやる!」


「ちょ……!?」


 俺はバタックスの胴体を蹴り、シャクナの方に飛ばした。

 突然、飛んできた悪魔にシャクナは驚きの声を漏らすが、咄嗟に抜いたシャムシールをバタックスに突き立てる。


『ギャウ……』


 バタックスの身体が粉々に砕け散り、黒い粒子となって消滅する。

 すでにランダリオンも消滅していた。2体の上位悪魔が討伐されてボス部屋に平穏が戻ってくる。


「驚いた……本当にやっちゃったよ」


 サロモンがパチパチと拍手する。


「コングラチュレーション。文句なしの合格だよ。呆れた……いや、素直に感心するほどの強さだった」


「……どうでもいいからアイテムをよこせよ。こっちは先を急いでるんだからな」


 サロモンの祝福の声を聞き流しながら、俺は剣を鞘に収めて報酬を要求したのであった。






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