第68話 千載一遇の勝機
「ちょ……貴方、何を言ってるのよ!?」
「へえ……なるほど。面白いことを言うねえ」
困惑に声のトーンを上げるシャクナに対して、サロモンは得心が言ったとばかりに手をを叩く。
シャクナはわからなかったようだが、サロモンには俺の考えが読めたらしい。
「確かに70階層までの秘宝を手に入れれば、千載一遇の勝機が生まれるかもしれないね! 君は顔だけじゃなくて頭も悪魔的に冴えてるようだ。ますます気に入ったよ!」
「それはどうも。こんなにも嬉しくない誉め方をされたのは初めてだよ」
俺はおざなりに返事を返して肩をすくめた。
一方で、話についていけていないシャクナが困惑しながら目を瞬かせている。
「ちょ……ちゃんと説明しなさいよ! 70階層までのクリア報酬があったらリューナを助けられるの!?」
シャクナが俺の両肩を掴んでガクガクと揺さぶってくる。
ちゃんと説明するつもりなので焦らないでもらいたい。俺はシャクナの背中を手で叩いてタップした。
「……お前もわかっていると思うが、このダンジョンは10階層ごとのボスを倒すことで貴重なアイテムが手に入る。リューナを攫った連中と戦う前に60階層と70階層の攻略報酬を手に入れておきたい」
60階層にあるアイテムも必要だが……俺が手に入れたいのは70階層の攻略報酬である。
消費アイテム──『ホルスの羽』
消費アイテムとは言ったものの、このアイテムの使用回数は無限。何回だって使うことができる。
その効力は砂漠エリア限定の無条件転移。『翡翠の墓標』のシナリオ内のエリア……つまりマーフェルン王国の内部であれば、どこにだって一瞬で転移することができる。
魔法使いが使用する転移魔法が町やダンジョンの入口にしか転移できないのに対して、あのアイテムはどこにだって転移することができた。
ダンジョンの内部から外に脱出することもできたし、事前にマーキングをしておけば特定の建物の内部や、攻略途中のダンジョンの途中にだって飛ぶことができた。
「ホルスの羽があれば……砂漠エリア限定という条件はあるが、一度行った場所にだったら何処にだって行けるようになる」
「もしかして……そのアイテムを使って『祭壇』に行くつもり!? リューナのところに行けるのね!?」
シャクナが興奮して顔を寄せてきた。
俺は軽く背中を逸らして詰め寄ってくるシャクナを躱し、説明を続ける。
「いや、俺もお前も祭壇に行ったことはないだろう。初見の場所には飛べない。どちらかというと脱出するために必要なアイテムだよ!」
ヴェインルーンは転移を得意とする悪魔だ。
生贄にされそうになっているリューナを助けて逃げようとしても、転移ですぐに追いつかれてしまうだろう。
確実に逃げ切るためには同じく転移の力が必要となる。
「制限時間は18時間。70階層まで自力で降りて取りに行く猶予はない。だが……ダンジョンの主がクリア報酬をゆすってくれるとなれば、話は別だよな?」
「うーん……そうだねえ。その通りなんだけどねえ」
サロモンに視線を向けると、少年の姿をした魔術王は困ったような顔になる。
「言いたいことはわかるし、協力してあげたいのも山々なんだけど……このダンジョンは試練のための迷宮。そして、クリア報酬として手に入る秘宝は試練を乗り越えた者だけが手にすることができる財宝なんだよね。試練をクリアしていない者に渡すことはできない。これは意地悪をしているわけじゃなくて、そういうルールがあるんだよ」
「そんな……貴方はこのダンジョンの主なんでしょう!? どうにかならないのかしら!?」
「どうにかしてあげたいんだけどね……お嬢さん? 自縄自縛と言って、自分自身に制約をかけることで魔術を強化しているんだよ。僕自身もこのダンジョンのルールには避けられない。そうでもしなくちゃ、こんな大量の悪魔を地獄から呼び出せるわけがないよね?」
「だったら、どうしたら……」
シャクナが表情を歪めて項垂れた。
落ち込んでいるのは俺も同じである。肩を落としてゆっくりと首を振った。
「万事休すか……他に方法があればいいんだが……」
希望が見えていた矢先に、それが指先から離れていってしまった。
このままでは本当にリューナを救い出すことができずに儀式を実行され、邪神も復活してしまうかもしれない。
俺は他に方法がないか考えこむが……さすがに状況を打開する奇策はポンポンと出てこなかった。
「だけど……君達の勇敢さに敬意を表して、少しだけサービスしようか」
しかし、そんな矢先でサロモンが口を開いた。
先ほど希望を取り上げた張本人から、再び希望の灯火を与えられる。
「サービスだと? やっぱり報酬をくれるってのか?」
「それは無理だけどさ。でも……試練の内容を少しだけ軽くすることはできる。ダンジョンマスターの権限の範囲内でギリギリまでね」
サロモンがイスに座った姿勢のまま人差し指を立てる。
すると……どこからともなく、サロモンの左右に2つの異形が姿を現した。
「なっ……!」
「60階層の守護者である『不死蝶』バタックス。70階層の守護者である『賢陣』ランダリオン。本来であればボス部屋まで行かなくては戦うことができないけれど、特別にこの部屋での戦闘を許すよ。もちろん……君達2人で勝つ自信があればの話だけどね?」
サロモンは悪戯っぽい顔で言ってのけ、こちらを試すような瞳で見つめてきた。
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