第88話 結果発表
――――――――――――――――――――
1年生 前期総合成績順位
主席:レオン・ブレイブ
次席:シエル・ウラヌス
3位:エアリス・セントレア
4位:ナギサ・セイカイ
5位: メーリア・スー
6位:ルーフィー・アストグロウ
7位:ジャン・ローザント
・
・
・
――――――――――――――――――――
翌日、学園の正面玄関横に総合成績結果が貼り出された。
その上位陣に俺の名前はない。
仲間であるエアリスとナギサよりもかなり下にいって、『17位』のところに『ゼノン・バスカヴィル』の名前が刻まれていた。
1年生がおよそ200人いることを考えると成績上位には違いないが、入学式の成績が『次席』であったことを考えるとかなり低くなっている。
「ま……予想通りと言えば、予想通りだな」
その結果を目にしても、俺の内心に驚きはなかった。
別に試験の手応えがなくて自信がなかったわけではない。
貼り出された『成績結果』であるが、実のところ『筆記試験』と『実技試験』だけでは決まらない。この成績には試験結果だけではなく、授業態度などの内申点も含まれているのだ。
そして……非常に厄介なことに、俺はエアリスを仲間にした時の一件が原因で謹慎処分を喰らっている。当然、その謹慎もまたマイナスの評価として成績に含まれていた。
「……残念な結果ですの。ご主人様」
「うむ……期末試験の成績だけならば我が主が1番なのだがな」
ウルザとナギサが慰めるように言ってくるが、この結果を事前に予想していた俺は平気で肩をすくめる。
総合結果の他にも『筆記試験』と『実技試験』の結果も貼り出されていたが、俺は筆記がレオンに次いで僅差の2位。実技はパーティーメンバーであるエアリスとナギサと同順位で1位だった。
特に実技はシンヤ・クシナギを倒したことも評価されたらしく、2位のレオンパーティーとは圧倒的な差をつけての1位。
つまり……試験の順位だけならば俺が1位だったのだ。
謹慎処分さえ喰らっていなければ、俺が学年主席になっていたことだろう。
「ごめんなさい……ゼノン様、私のせいで……」
責任を感じたらしく、謹慎の原因となったエアリスがしょんぼりと肩を落とす。
「謝るな。もう済んだことだ。すでに謝罪はもらっている」
しかし、俺にとってはあの謹慎はいい修行期間になったと思っている。
別に学年主席になりたかったわけではないし、今更どうでもいいことだった。
「悪かったと思っているのなら、これからもヒーラーとして役に立ってくれよ。頼りにしているんだからな」
「っ……! もちろんです! ゼノン様にいただいた指輪に誓って、身も心も捧げて癒して御覧に入れます!」
エアリスが左手の薬指に嵌まった指輪型のマジックアイテムを握り締め、瞳をキラキラと輝かせる。
非常に頼もしい発言であるが……どうして癒す対象が俺だけなのだろう。
『身も心も』という言葉にも
「そういえば……ゼノン様。ナギサさんから聞いたのですが、東の国には『ニョタイモリ』という素晴らしい文化があるそうですよ? 明日から夏休みですし、景気づけに夕食にお出ししようと思うのですが……」
「やっぱりそういう意味じゃねえか! お前の頭はピンク一色かよ!」
ダメだ、この女。
もう『性女』から帰ってこれなくなっている。
いくらアダルトゲームのヒロインといえど、あまりにも酷いキャラ変だ。
「待て、エアリスよ。女体盛りには新鮮な刺身が欠かせない。まずは市場で魚を入手しなくては」
「でも、王都では海の魚は干物か塩漬けしかないですの。川魚じゃ生臭いですの」
「うーん…………そうですわ! セントレア子爵家が贔屓にしている商会に、お肉を魔法で冷凍して遠方に販売している者がいます! その商会を介してならば、新鮮な海の魚を手に入れることができるかも……!」
「具体的な計画を立てるなよ!? お前ら、どんだけエロに前向きなんだ!?」
女体盛りで盛り上がる女性3人……どうして彼女達はここまで
ここまで愛されると、もはや嬉しいとかじゃなくて捕食者に狙われる小動物の気分になってしまう。
「周りに人もいるんだからそういう話はやめてくれ……ほら、夏休み前のオリエンテーションだ。さっさと講堂に行くぞ!」
俺は3人を急かして、講堂へと連れて行こうとした。
だが……そんな俺の前に主人公であるレオン・ブレイブが立ちはだかる。
レオンは珍しく1人きりで、幼馴染のシエルも新参者のメーリアもいなかった。
「バスカヴィル、ちょっといいか?」
「おいおい。学年主席のブレイブ君じゃないか。何か用か?」
「茶化すなよ……自分でもふさわしくないことくらいわかってるよ」
冗談めかして訊ねると、レオンが整った顔立ちを歪ませる。
「……どう考えても、僕よりもお前の方が強いのは明らかだもんな。学年主席はお前にこそふさわしいよ」
「……何だ、急におだててきやがって。男に褒められても嬉しくねえぞ」
俺が鬱陶しそうに言ってやると、レオンは「だろうな」と苦笑する。
「バスカヴィル……今回は助かった。君がいなかったら僕もシエルも、メーリアもアイツに殺されていた。本当にありがとう」
「…………」
「だけど……僕はまだ負けていないから。君に勝つことを諦めていない」
レオンははっきりと俺を見据えて、力強く断言する。
「君はすごい奴だ。だからこそ……僕は君に勝ちたい。絶対に勝ってみせる!」
そう口にするレオンはまさに主人公。
己の弱さを認め、さらに成長していこうとするヒーローのようだった。
「やってみろよ、
「ああ、だからこそ目指す価値がある! 夏休み明けを覚えておけよ。僕はきっと、見違えるほど強くなっているからな!」
そう言い残して、レオンは踵を返して歩いていく。
俺は去っていく主人公の背中を見送り、「フッ」と苦笑した。
「それなりにマシな目になったようで何よりだ。どうやら、シンヤは当て馬として良い仕事をしてくれたみたいだな」
どんなものにだって使い道があるというが……シンヤのようなクズにだってレオンの成長を促す役には立ったようである。
宣言した通り……夏休み明け、レオンはすこぶる成長した姿で現れることだろう。
再び主人公と顔を合わせるのが、今から楽しみである。
○ ○ ○
こうして、スレイヤーズ王国剣魔学園。1年生の前半が幕を下ろすことになる。
悪役キャラ――ゼノン・バスカヴィルとして過ごす学園生活は予想外のアクシデントばかりであり、次々と襲いかかってくる敵と災難に悩まされてばかりの日々だった。
それでも――ウルザやエアリス、ナギサといった頼もしい仲間を得ることができた。
最初は険悪だったレオンとも最終的には和解しており、主人公としての成長を促すことにも成功した。
ジャンやアリサといった、ゲームで死ぬはずだった人間を救うことができたこと。本来であればもっと後半に戦う予定のシンヤ・クシナギを倒すことができたのも、大きな収穫と言えるだろう。
ただ……ここで物語は「めでたし、めでたし」とはいかない。
もう1つ、語るべき事件が残されていた。
「ゼノン様、旦那様が部屋に来るようにとおっしゃっております」
オリエンテーションを終えて屋敷に戻った俺に、執事長であるザイウスがそう告げてきた。
数ヵ月ぶりになる父親との再会。
スレイヤーズ王国の夜を支配するバスカヴィル家の当主――ガロンドルフ・バスカヴィルと再び相まみえる日がやって来たのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます