第87話 熱い夜


 美少女達との共同生活が始まり、すでに半年近くが経っていた。

 様々な誘惑を受け続ける生殺し生活にも慣れてきたはずだが……実技試験が終わってからというもの、女性陣のスキンシップが強くなっているような気がする。


 原因は明らか……ナギサが謎の覚醒を遂げたことである。

 父親と流派の仇をとるという人生目標を達成したことにより、ナギサは仇討ちに助力した俺のことを主君として崇めるようになった。

 それまでも一緒に入浴をしたり、同じベッドで眠ることもあったが、それに輪をかけて過剰に接してくるようになっている。


 風呂場では髪や身体を洗ってきて平気で裸体をくっつけてくるし、寝る時も当然のように抱き着いてくる。

 そして……そんなナギサの変化に恐々とさせられているのは、他の女子達だ。

 エアリスとウルザ、ついでにメイドのレヴィエナも……ナギサに負けじとスキンシップを強めており、毎晩のようにお色気合戦のような争いが繰り広げられていた。


 俺が父を倒す日まで禁欲生活を送ることは明言しているはずなのに、そんなことは知らんとばかりに、彼女達は俺のことを誘惑してきている。

 理性が崩壊しかねない日々の中で、逆に欲望の向こう側にある悟りを開いてしまいそうだった。


「ナギサさん、そろそろ代わってください! 私が身体を洗いますから」


「まあ、待て。エアリス。今日も鍛錬で汗をかいたからな。しっかりと髪の付け根まで洗っておかねばならぬ」


「うー……2人ともズルいのです。あそこでパーを出していれば……!」


 俺の髪を洗うナギサのそばには、順番を待っているエアリスがいた。

 少し離れた浴槽にはウルザが湯につかっており、お湯に鼻まで浸けてブクブクと不満そうに泡を吐いている。

 彼女達の間でどんなやり取りがあったのかは知らないが……最近、誰が俺の身体や髪を洗うのかジャンケンで決めているらしい。

 今日の勝者はナギサとエアリス。敗者のウルザが恨めしげにこちらを見つめていた。


「仕方がありませんよ、ウルザさん。ご主人様は偉大な御方。皆が奉仕したがるのは当然なのですから」


 そんなふうに慰めの言葉をかけているのは、ウルザと一緒に湯船につかっているレヴィエナだった。

 美貌のメイドは薄手の湯着を纏っており、ウルザの頭をよしよしと撫でている。


「心配せずとも、あと少しの辛抱です。今日の添い寝当番は私達ですから。今夜はずっとご主人様に抱き着いて寝られますよ?」


「うー、わかってますの。辛抱、我慢ですの……ところでレヴィエナさんはどうしてお風呂で服を着てるですの?」


「殿方というのは、裸よりも身体のラインが出る薄手の服を着ている方がかえって興奮するものです。大事なのは緩急をつけること。常に肌をさらすよりも、あえて服を着て想像を掻き立てることも恋の駆け引きですよ」


「勉強になるですの……ご主人様に飽きられないように頑張りますの!」


 などと妖しい会話が背後で繰り広げられていた。

 お願いだから、おかしなことを吹き込まないで欲しい。ウルザから誘惑を受けるたびに後ろめたい気持ちになって仕方がないのだ。


「ふふふ~。ふふふ~」


「…………」


 俺の髪を洗いながら、ナギサは上機嫌に鼻歌まで歌っていた。

 何がそんなに楽しいのかはわからないが……鼻歌に合わせて、後方で何かが揺れている気配がする。

 全身の神経が背中に集中しており、後方で揺れる柔らかな塊の気配を全力で感じ取ろうとしているのがわかった。


「うん。名残惜しいが髪を洗い終えたぞ。我が主よ」


「……ありがとうよ」


「泡を流すから目を閉じてくれ」


「っ……!」


 シャワー型のマジックアイテムから程よい温度のお湯が出て、俺の頭の泡を流していく。

 その間、ナギサが不自然なほど密着して首筋に胸を押しつけてきた。恐ろしく柔らかくて重量感のある塊が左右から首を包み込み、ガッチリと頭部を固定する。

 なるほど……こうして頭を固定して逃げ場を無くしてしまえば、さぞや頭を流しやすいことだろう。

 ナギサの奴、いったいどこでこんな技を覚えたのだろうか?


「ふふふ~、んふふ~」


「はいはいはいはい! ここまで! もう泡は落ちていますよ!」


「おっと……強引だな、エアリス」


 とうとう我慢できなくなったのか、エアリスがナギサを押しのけて俺に抱き着いてくる。

 固定されていた頭部が解放され、代わりにナギサのものよりも一回り大きな双丘がくっついてきた。


「今度は私の番です! お身体を洗わせていただきますっ!」


「ぐおっ……!?」


 こともあろうに、エアリスはスポンジを使うことなく俺の身体を洗おうとしていた。

 具体的に言うと……石鹸の泡まみれになった自分の身体を使って。


「おまっ……それは専門店の技だろうがっ! ヒロインがやっていいことじゃないだろ!?」


「何をおっしゃっているのかわかりませんわ。この身をもってゼノン様にご奉仕できる素晴らしい方法だと思いますけど?」


「ぐうううううううっ……!?」


「ウフフフフフ……!」


 エアリスが嫣然と笑いながら、俺の背中に己の身体を滑らせる。

 聖女と呼ばれる女の細い両腕が脇を通って前方に回された。10本の指が怪しく蠢き、腹筋と大胸筋を撫でて時折乳首を弾いたりする。


 いや、コイツもどこでこんなテクニックを覚えたんだ。

『聖女』というか……もう完全に『性女』と化しているではないか。


「おまっ……ちょっと待て! タイム、少しでいいからタイムだ……!」


「ウフフフフフ……ゼノン様ってば、乳首が弱点ですわね。自分で気づいていらっしゃらないでしょう?」


「ちょまっ……ぐおあああああああ……!」


『性女』の指先が別の生き物のように躍動して、俺の身体の敏感な部分を刺激してきた。

 もう完全に特殊なお店のサービスのような有様になっているのだが……誰だよ、この女を聖女とか呼び始めた奴は。


「うぎいいいいいいいいいいいいっ!」


「ウフフフフフ……! アハハハハハハハッ……!!」


 押し込められた悲鳴と、サディスティックな笑い声が浴室にこだまする。


 普段にもましてサービス過剰な熱い夜は、悩ましくも艶やかに更けていく。


 明日はいよいよ、期末試験の成績発表。

 俺の順位は果たして……?

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