第76話 アンデッド狩り
マルガリタ峡谷に足を踏み入れた俺達は、立ちふさがるアンデッドを倒しながら先に進んでいく。
「ヤアッ!」
「オオオオオオオオッ!」
ナギサが刀を振るうと、青白い半透明のレイスが真っ二つに両断された。レイスはうらめしそうな表情を浮かべながら、虚空に溶けるように消えていく。
本来であればレイスやゴーストのように実体のない敵は、剣士や戦士にとって天敵となる敵だった。
しかし、アンデッド系モンスターに有効打となる刀を装備したナギサに死角はない。
現れるモンスターを次々と斬り裂いていく。
「さまよえる死者に救済を……ターンアンデッド!」
もちろん――それ以上に活躍しているのは、神官のエアリスである。
エアリスが魔法を発動させるたび、十数体のアンデッドがまとめて浄化されていく。
「ががががががっ…………ああっ!」
白い光に包まれたアンデッドは一瞬だけ苦痛の声を上げるが、すぐにそれは解放の歓びに変わる。
浄化の光を浴びて天に昇っていく魂は、長きに渡る死の呪縛から解き放たれ、一様に安らかな表情を浮かべていた。
「む……」
2人は大いに活躍しているが……その反面、俺の出番が驚くほど減ってしまった。
俺が得意とする闇魔法はアンデッドに対して効果が薄い。光属性が付与された装備を身につけてはいるが、スピードで勝るナギサが先んじて敵を倒してしまうため、切り込む前に勝負がついてしまう。
俺がやることと言えば、敵が増えてきた際に聖水を撒いて追い払ったり、ポーションを使って女子2人の援護をするくらいだ。
実技テストの得点はパーティーごとに加点され、均等に割り振られる。
活躍しなかったからといって不利になったりはしないが……どことなく、釈然としない心境であった。
「ふう……これでどれくらい倒したかな?」
「さっきので150ほどだな」
ナギサの質問に、渡されたカードを確認して答える。
実技試験が開始されて3時間。それなりに多くの敵を倒すことができていた。
現在、俺達のパーティーがいるのは峡谷の上層部分の中程にあたる。
ここに来るまでに他のパーティーにも出くわしたが、余力を残して戦えている者達もいれば、ケガをして救援を待っている者達もいた。
エアリスの希望でケガ人を治療しながら進んできたため、ややペースは遅くなっていたが、数は稼ぐことができている。
「この調子ならば、もっと深い部分まで行っても大丈夫そうだな」
「ですが……それは危険ではないですか。もっと慎重に行動したほうが良いと思いますが」
血気盛んなナギサを、エアリスが窘める。
ここまで危なげなく戦うことができていた。確かに、もっと強い敵が出現するエリアまで行ってもいいような気がする。
だが……
「……そうだな。少し慎重に進もう」
俺はナギサではなく、エアリスの意見を採用した。
「ふむ? 我が師よ、理由を聞かせてもらっても構わないか?」
意見を却下されて、ナギサはやや不満そうに唇を尖らせた。
どうやら、狂戦士の素質があるこの少女は、もっと強い敵と戦いたくて仕方がないようである。
「この峡谷の奥には、マルガリタ王妃の亡霊がいるからな……遭遇する確率を少しでも下げておきたい」
マルガリタ王妃はこの峡谷のボスモンスターである。
無実の罪で処刑された王妃は、峡谷の最深部にある『王妃の処刑台』という場所にいるのだが、非常に低い確率で峡谷の内部をさまよっているところを遭遇することがあるのだ。
『王妃の散歩』と呼ばれるそのランダムエンカウントは、致死率90%以上。多くのプレイヤーを悩ませた災難である。
「峡谷の奥に進むほど、王妃と遭遇する確率は上がってしまう。たかが学校のテストで、命懸けのギャンブルはしたくないからな」
「ふむ? よくわからないが、我が師の言葉であれば信じよう」
ナギサは首を傾げながらも、とりあえず納得してくれた。
このダンジョンに出現するモンスターはそれほど強くはない。上層の敵であれば、アンデッド対策さえしていれば楽勝。下層の敵でも、中盤程度のスキル熟練度があれば問題なく倒すことができる。
にもかかわらず……何故かマルガリタ王妃だけが異常に強い。
王妃の強さは、ゲーム後半のボスキャラと同等ほどの強さであり、下手をすれば魔王の腹心である『四天王』にも匹敵する。
十分なアンデッド対策はしているが、遭遇すればまず勝ち目はないだろう。
「……他の生徒も無事だといいんだが。特にレオン」
レオンは俺に負けたことでやる気を出しており、この実技試験にもかなり意気込んでいる様子だった。
それは狙い通りなのだが……俺が引き出したやる気が、悪い方向に空回りしなければいいのだが。
「……ヤバいな。これはフラグじゃないよな?」
無性に嫌な予感がしてきた。
余計な旗を立ててしまったかもしれない――そんな思いを胸に、俺は紫色の不吉な空を見上げたのであった。
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