第18話 仲間を求めて
ダンジョンから脱出した俺は、ワンコ先生に到達報酬のメダルを手渡した。
無事に『賢人の遊び場』をクリアーしたものと認定され、他のダンジョンへの探索が許可された。
レベルが高いダンジョンであれば強力なモンスターも生息しており、スキルの熟練度も上げやすくなるだろう。まずは最初の関門を突破である。
ちなみに……予想通りというか、レオン達はメダルを取り忘れたらしい。
せっかくイベントボスであるガーゴイルに勝利したというのに、後日また『賢人の遊び場』に潜らなくてはいけなくなった。本当にご愁傷様だ。
ガーゴイルについてはすでにワンコ先生に報告している。本来そこにいるはずのない強力なモンスターの出現に学園側も驚いていた。
とはいえ……ダンジョンにおいて予想外のアクシデントはつきもの。死者が出なかったこともあり、目立った対策は取られそうもない。
勇者の子孫を狙っていたガーゴイルの目的は闇に葬られたのだった。
「さて……いい加減に仲間を探さないとな。いつまでもソロ縛りのプレイじゃ限界がある」
授業を終えた下校した俺は、学園のすぐ近くにある市場を歩きながらぼんやりとつぶやいた。
今日は寄り道をするために徒歩で帰路についており、送迎に使っている馬車は先に帰らせている。
活気のある市場には大勢の人々が行き交っていた。
買い物に来た主婦。お菓子をもって走りまわる子供。言葉巧みに商品を売りつけようとする商人……中には、獲物を狙って品定めをしているスリらしき者までいる。
彼らに共通しているのは、俺と一定の距離をとって道を避けて通っていることだった。
会話すらしたことがない彼らがバスカヴィル家のことを知っているわけがないので、単純に顔が怖いから避けているのだろう。
『成金の部屋』でアイテムを回収したおかげで、ポーションをはじめとした消費アイテムには困らない。俺のマジックバッグには、下級から超級まで、数百本ものポーションが入っている。
しかし、問題は消費アイテムではなく装備アイテムである。『成金の部屋』で取り戻した武器や防具はほとんどが今の俺には装備できないものなのだ。
このゲームにおける装備品には、身に着けるために必要なスキルと熟練度が存在している。
例えば、『銀の大剣』という武器アイテムならば、【剣術】のスキルの熟練度が30以上でなければ装備することができない。
周回特典として取り戻した装備品のほとんどは、周回を重ねて手に入れた強力な武器や防具ばかりである。
必要な熟練度も非常に高く、現状では装備することができないのだ。
せっかく取り戻した最強武器――天乃羽々斬丸も必要スキルは【剣術】90以上。今の俺では宝の持ち腐れでしかなかった。
「こんなことなら、弱い武器も残しておくんだったな……いや、弱い武器じゃあ意味がないんだが……」
こうなった以上、俺がやるべきことはダンジョンに潜ってスキルの熟練度を上昇させるしかない。
だが、そのためにはどうしても越えなければならない壁がある。冒頭に話が戻って、ソロで高レベルのダンジョンに潜るのは限界があるのだ。
どれだけ俺が攻略情報に精通しているからといって、ダンジョン攻略の危険がまるでないわけではない。
例えば、状態異常に冒されてしまったらどうすればいいのか。
毒だったらすぐに薬を飲めば治るのだが、麻痺や石化だったら一撃で戦闘不能になってしまう。仲間が回復してくれなければ、その場で詰んでしまうだろう。
シナリオ後半であれば状態異常への耐性スキルも育っているだろうが、序盤では治癒魔法や回復アイテムに頼るしかない。
「つまり、いざという時に助けてくれる仲間が不可欠。しかし――俺はボッチだ……!」
俺がレオンであったならば、最初から幼馴染みヒロインのシエルという仲間がいる。
けれど、俺はレオンではなくゼノンだ。孤高の悪役キャラのゼノン・バスカヴィルなのだ。
ゼノンは『2』のゲーム内でも、ヒロインを寝取って洗脳する以外に仲間を得る方法がなかったほどで、まっとうな方法では仲間を作れない。
それらの設定全てがこの世界に反映されているとは思えないが……クラスメイトの様子を見る限り、彼らを誘って仲間を増やすことは難しそうである。
「となれば選択肢は2つ。傭兵を雇うか、あるいは奴隷を購入するか……」
選択肢の1つ。まずは傭兵。
『ダンブレ』には傭兵をしているサブヒロインがいて、金を出すことで彼女を雇って仲間にすることができた。金を消費してしまうというデメリットはあるものの、最初から一定以上の戦闘力を持った即戦力を仲間にできるのだ。
問題は……金で雇われた人間が信用できないということである。傭兵として雇った仲間キャラの中には、戦闘でピンチに陥ると逃げ出してしまう者がいた。他にも金やアイテムを持ち逃げする者もいて、曲者ばかりだった記憶がある。
となれば……選択肢の2つ目。オークションで奴隷を購入して、仲間にするほうがマシだろう。
スレイヤーズ王国には合法的に奴隷制度が存在している。
隷属魔法によって縛られた彼らは主人を裏切ることはできず、半永久的な忠誠を強制的に誓うことになってしまう。
奴隷のほとんどは犯罪奴隷か、借金による経済奴隷。奴隷に対する虐待や殺害行為などは法律上禁止されているが、鞭で叩く程度の折檻では罰されることはない。人権が大幅に制限されるのは間違いなく、自由だって失われてしまう。
正直、健全な日本人であった俺にとって、奴隷を購入するという行為は忌避感を感じるものである。
しかしながら、命がかかった現状で手段を選べる余裕はない。ソロでダンジョンを潜り続けていれば、いつか必ず命を落としてしまう。
これがゲームであったのならコンティニューをすれば済むだけだが……現実となった今では、迂闊に命を懸けることなどできるわけがない。
「俺だって生きていかなきゃいけないからな。そのために忠実な部下は絶対に必要だ……たとえそれが奴隷であったとしても」
奴隷となってしまった人間には心から同情をするが……俺が買わなかったとしても、その奴隷が解放されるわけではない。反対に、俺が購入することで救われる人間だっているはずだ。
俺はそうやって自分に言い聞かせながら……奴隷売買を行っているオークション会場へと足を向けたのだった。
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