第44話 同情心 (カイン視点)

 ……そう啖呵を切って、伯爵家を後にしたものの、俺はすぐにサーシャリアの捜索に難航することになった。


 当たり前の話だ。

 俺は伯爵家と交流があった家も、ほとんど知らない。

 サーシャリアがどこにいるのか手がかりもない現状、伯爵家の交流を知らなければ、辺りもつけられない。

 伯爵家と協力しない状態で、サーシャリアを見つけるのは、ほとんど困難に近いだろう。


 そして、今謝りに行けば伯爵家と協力を結べることも、俺は理解していた。


 今もなお、伯爵家がサーシャリアを見つけたという報告は聞いていない。

 それを考えれば、伯爵家にサーシャリアが戻ってくることは考えられないだろう。

 そのことを指摘しつつ、何度も頭を下げれば、あの伯爵家の面々は俺に情報を流してくれるに違いない。


 ……けれど、そう分かりながら俺はその選択をする気になれなかった。


 今はサーシャリアを見つけるのが一番だと思っている。

 けれど、そうしてサーシャリアを見つけても、彼女に待っているのは家族に使い潰される悲惨な未来だろう。

 それを知って、伯爵家と手を結ぶ気に、俺はどうしてもならなかった。


「利用することしか考えていない相手に何を考えている?」


 そんな不可解な自分に、思わず呟いてしまう。

 母から教わった知識を使って、俺は今まで多くの女を虜にしてきた。

 けれど、こんなに気になるのは初めてだった。

 その理由が何か、俺は意識を巡らす。


 ──子供は、親のための道具じゃないんだよ。


 伯爵家当主へと言い放った自身の言葉を思い出したのは、その時だった。

 それだけで全て理解することができて、俺は小さく呟く。


「そうか、俺は。……あの女に同情しているのか」


 あまりにもどうしようもない理由に、俺は思わず失笑しそうになる。

 誰が、何を言っているのだと。

 俺だって、これから先あの伯爵家連中と変わらない、サーシャリアを利用しよとする人間だ。


 ……しかし、そうと分かりながら、何故か俺の胸に伯爵家連中に、サーシャリアを渡すという選択肢はなかった。


 全ては、サーシャリアの現状に、共感を覚えてしまったが故に。


「まあ、いい。こちらの目的のために散々利用する気しかないんだ。そのために、少しぐらい誠意を見せるのも当然の話か。……いや、全ては見つけてからの話か」


 そうして、俺はサーシャリアを必死に捜す。

 それでも、それから数日俺は、まるでサーシャリアの行方を掴むことができなかった。


 ……サーシャリアの情報を得たと、伯爵家周辺を探らせていたキルアから連絡がきたのは、そんな時だった。



 ◇◇◇



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