第40話 流出の理由 (カイン視点)

 馬車をとばし、伯爵家へとたどり着くと、忙しく動き回る使用人が俺たちを迎えた。

 以前と同じように、キルアと別れ俺は別室に案内される。

 それから、伯爵家当主が現れたのは、少ししてからだった。


「本日はどうしました? サーシャリアの行方に関しては、わかり次第こちらから連絡させていただこうと思っていたのですが……」


 困惑した様子の伯爵家当主へと、俺は告げる。


「……本日は少し、聞きたいことができてよらせてもらった」


 そう話を切り出しながら、ある疑念が俺の中に生まれていた。

 伯爵家当主の顔には、急にきた俺に対する疑念があるが、それだけだった。

 俺が来たことに対し、一切の罪悪感も顔に浮かべていない。

 そのあまりにも自然な態度に、俺は今さら気づく。


 伯爵家当主が感知していない可能性もあるかもしれないと。


 ……飛び出してこず、もう少しキルアから正確に話を聞いておけば良かったかもしれない。


 内心後悔しつつ、俺は会話を続ける。


「現在、サーシャリア失踪の噂が広まっている。それについて何か知らないか?」


「それは私達が広めたものですが?」


「……っ!」


 一切の迷いもみせず、そう言いきった伯爵家当主に、俺は絶句した。

 けれど、そんな俺の様子に気づかず、伯爵家当主は続ける。


「心配は分かりますが、こんなことを聞くためにわざわざ来ずとも、大丈夫です。なあに、すぐにサーシャリアを見つけて連絡……」


「……何を、考えている?」


「は? 何を、とは?」


 まるで分からないと言った表情。

 それに俺は思わず怒声を上げかけて、何とか自制する。


「アメリアから、サーシャリア不在を隠せと聞かなかったか?」


「はは、奇異なことを仰る。世間知らずな娘の言葉を真に受けて動いているようでは、一貴族の当主は務まりませんぞ」


 自信満々にそう告げる当主に、逆に聞きたくなる。

 一体今までに目にしたどこが、一貴族の当主に足る姿なのか、と。

 そう苛立ちを溜めつつも、俺はふと思う。


「心配されなくとも、これは考えた上での行為です」


 ……伯爵家当主のこの自信の理由はいったい何なのかと。


 もしかしたら伯爵家当主は、俺が気づかないサーシャリア不在を明かすメリットに思い至っているのか?

 それゆえのこの自信だとすれば……。

 そう考えた俺は、とりあえず話を聞くことにする。


「……それは一体どんな考えだ?」


「おや、カイン様には理解できませんか? この程度のことも分からぬとは……」


 あからさまにこちらを見下す視線。

 苛立ちが募るのを感じながらも必死に耐え、伯爵家当主の言葉を待つ。

 そんな俺に満足そうな笑みを浮かべ、伯爵家当主は続けた。


「隠して探るよりも、早く見つかる。理由などそれに決まっているでしょう!」


 瞬間、俺の思考は真っ白になった。

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