第7話「笑顔が兵器なんですか?ってなんですかそれ……」

「我々の組織は【GF】

 正式名称を・Get Flicks(ゲットフリックス)

 というんだけど」

「それいきなり大丈夫ですか不安しかないんですが」

「極秘組織だから平気だよ。だよね?」

「どうでしょう」

「え、やばいの?消される?」

「私に聞かれても。」

「ま、大丈夫でしょ。で、GFの目的は」

「(続けるんだ……)」

「少女達のサポートと問題解決だ。」

「ふーん。ん?少女達?」

「大事なところだね。実をいうと相生君のような少女は他に3人いる。全員合わせて4人。」

「4人……みんな笑顔が兵器なんですか?ってなんですかそれ……」

 自分でいってて笑える台詞を真面目に質問している。

「いや、笑顔が兵器なのは相生君の特性で、他はみんな違う。」

「図で説明するわね。」

 相生さんはボードに図を書いた。


 喜→怒

 ↑ ↓

 楽←哀


 これは次のテストにでるんだろうか。


「この矢印の向きで感情を現すと人が死ぬの」

「相生君、説明が端的すぎだよ……もっと例を出さないと……」

「そうですか?」

 博士は説明を、書き足していく



・この体質の少女は四人。

・相生君の場合:喜怒哀楽の「哀」のファクターをもつ


・哀→楽の感情(笑顔)を現すと現された相手は死ぬ


 ・喜のファクター「怒ったら人が死ぬ」

 ・怒のファクター「泣いたら人が死ぬ」

 ・哀のファクター「笑顔で人が死ぬ」

 ・楽のファクターは「喜びで人が死ぬ」



「こんなところかな。」

「さっきより、わかったけど……ファクター?」

「少女達はそれぞれ喜怒哀楽のどれかのファクター(因子)を持ってる。この四すくみ構造の矢印の向きに行動をとると相手を殺してしまう。」

「は?」

 やばいぞ俺。国語3と4を行き来してる俺にはキャパシティがオーバーしかねない。

「私の場合、哀のファクターを持ってるから、対となる楽、つまり、楽しくなって笑顔を見せたらその相手を……殺して……しまう」

「説明ありがとう相生君。無理に説明しなくていいよ。辛いだろう?」

「……」

 そうだ。本人の意志じゃなくても目の前で自分が原因で人が死んだかもしれないんだ。昨日の嘔吐はそれで体調が悪くなったんだな。後で謝らないと。俺が、そのシチュエーションを作ったようなものだから。


「なるほど。つまりこの図からいうと怒のファクターを持った人が泣いたりしたら、あれ?誰が死ぬの?」

「いいところにたどり着いたね。この問題の厄介なところは、この4つの感情の境界線は非常に曖昧で誰もが不意に見せてしまうことだ。

 例えば[喜]と[楽]はよく似ているだろ?そこの境界も曖昧だから基本的に少女達は無口、無表情、無感情でいきるようにしている。少女全員がそうではないらしいけど。」


 なるほど。相生さんの鉄仮面はそこから来ているのか。……つまり無理やり感情を押しつけているのか。


「それってかなりきつくないですか?」

「そう。感情を殺して生きるのは戦地にいる戦士のような精神だ。だから僕としては学校は辞めてここで働けばいいのにと思ってるんだけどね。」

「それは嫌です。」

「俺もそれは嫌だなぁ」

「広山くん……」

「俺がここに呼ばれた理由がわかりました。相生さんのサンドバックですね?」

「うーんその思考は興味深いけど、そういう趣味があるの?」

「ありません。」

「じゃあ違うらしいよ。GFとしては君は彼女と行動して他の少女達を見つけて交渉、協力関係にこぎ着けて欲しいってこと。」

「GFと他の少女達は協力関係にないんですか?」

「ない。みんな孤立して別々の動きをしてる。」

「あー、なるほど。他の少女達は問題を解決する気はないんですか?」

「積極的に動いてるのは怒のファクターを持つ子くらいかな?喜は無関心で、楽については詳細が不明だ。」


「なら、まずは喜を身内に入れて、怒と交渉、その後3人で楽を探すべきか……ん?解決する方法はわかってるんですか?ってあれ?」


「……」

「……」

 2人は目を丸くしていた。

 なぜだ?何かまずった?


「なんか俺、余計なことをいいました、かね?」

「いや、ちょっと驚いてて。」

「広山くん。あなたは参謀としての才能がある。とても心強い。」

「へ?」

 こんなの小説でもゲームでもよくある。勢力が敵対と中立にわかれているなら、闇雲に全てと敵対するより仲間を作って交渉するほうが、コストが低くて成功率が高いんだから、迷う理由もない、はずだけど……。

「もしかしてみなさんあんまり、歴史とか小説とかゲームとかしない人たちですか?」

「私はシューティングしかやらない。」

「僕ももっぱら機械と科学だねー」

「あーはい。了解です。」


 ここには尖った人しかいないらしい。


「それより、全員のこの呪いみたいな状況を解決する方法はないんですか?」


「ない。今のところ。少女達が消しあって最後に残った1人がその呪いから開放されるというのが、GFの今のところの結論だ。」


「消しあってって……人殺しをさせるつもりですか!?」

 バンと机を叩く。

 つい熱くなってしまった。


「い、いや、それは最後の手段でそうならないために全員と交渉して解決法を見つけたいんだよ。」

「わたしはやるわよ。」

「相生くーん……」

「もう1人巻き込んで殺めてしまった。もう2人も3人も変わらないわ。」

「君ねぇ…」

「よく言うよ。」

「え?」

「やってしまったとき、あんな顔して、何が後2人も3人も一緒だよ。」

「……っ!広山くんには、わか」

「あれは俺がやったんだよ。」

「え?」

「あれは俺が原因をつくって、シチュエーションを作って、俺が引き金を引いたようなものだ。相生さんを笑顔にしてしまったのは俺なんだから。」

 何をいっているんだ俺は。

 どうした?

 でも、本当の気持ちだ。

「だから罪の意識があるなら、半分は俺がもつから」

「!」

「半分は相生さんが持ってもいいからさ。だからもう人を殺めるのはしないでよ。」

「広山くん……」

「ちょっとトイレっと……」

 博士は空気を呼んでくれた。

 サンキュードクター!


「いいの?」

「なんとか解決法考えようよ。それでも何も見つからなくても、俺には感情現しても大丈夫なんでしょ?何でも言ってよ。また、そこから考えればいいじゃん」

 お、俺いいこと言ってる!……言ってるよな?


 ポタポタ


 彼女の目から光が落ちる。

 薄暗い部屋でも、わかる。

 相生さんは泣いている。


「これ、この前のハンカチ。返すからふきなよ」


 自分のは持ってない。


「……グスッ。ありがとう。」


 このありがとうはどれに向かって言っているのか……。


「もちろん、励ましてくれたこと。」

「読心術!?」

「へ?」

「い、いや。なんでも。」

「とりあえず、よろしくね。広山くん。」

「あ。うん。よろしく。」


 彼女の流した涙はきれいだった。

 鉄仮面の目にも涙。



 ・・・・


 それにしても


 博士の言ってたことが一つ気がかりだった。


 GFの出した結論。


 四人が殺し合い最後に残った1人が呪いから解かれる。


 俺はこの現象を知ってる。


 これはむしろ逆のアプローチだ。




 これは




【蠱毒】だ。



 最も強い毒を作るための


 呪いだ。

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