スタンピードの報告書
日本国、内閣総理大臣である羽島勲の元には国内からの報告と外国からの説明を求める電話やメールが、映像や画像を添付されて送られてきていた。
関係する報告は主に五つ。
一つは、東北地方は宮城県沖のマグニチュード8くらいの大きめの地震を始めとして、世界中の至る所でマグニチュード6~7の大きな地震を観測したこと。
この地震による被害は、地震大国故にどの建物も耐震構造が施されている日本よりも、あまり地震が起こることが想定されていない。建物が脆かったり、古かったりする国が大きな被害を受けた。
これによる死者は全世界で数十万人に上ると推定されているが、日本での死傷者は多分数十人程度だろう。
二つは、その地震に伴ってダンジョンからかそれ以外からかは解らないが世界中の至る所で数万~数十万に及ぶ魔物の群れの大奔流、スタンピードが確認されたと言うこと。
全世界で、大体1000人~1万人にいるとされる『鑑定』スキル持ちの人間の報告によると、そのレベルは3??~5??と三桁を越えることだけは明らかで。
ステータスに至っては、????億――11桁を越える魔物が何万匹といたらしい。
三つは、その鑑定持ちですら鑑定できない――世界中で稀に観測される称号の中でも特に『下級神』『中級神』『上級神』の称号を持つ化け物が70体ほど観測されたらしい。
そのステータスは不明だが、最低でも16桁――京に及びそうな雰囲気があるらしい。だが、それはあくまで11桁の魔物と比べた観測にて、大体十万倍は強そうと言う感じの比較による予想に過ぎない。
しかし、人類の計算による予測がそう外れているとも思えない。
そして四つは、それらの――例え何万といるレベル三桁の魔物でさえ人類を滅ぼしかねない驚異を秘めているその化け物を倒したのは、なにやら不気味の武器を持った機械兵のような人形――種族名『靖といちかの殺戮機械人形』のみは観測されているらしい――と、佐島靖という男である。
佐島靖の職業は従魔師であることから、あの機械兵は間違いなく佐島靖の従魔。
つまり、この世界に訪れた観測すら難しい――地球を1000回は軽く滅ぼせそうな脅威を、佐島靖と従魔だけで全て返り討ちにしてしまった。
それに関する外国からの日本国政府に対する質問が相次いでいた。
「くそっ! 佐島靖のことに関しては俺の方が知りたいわ!!」
何せ、佐島靖は何でだか解らないが今まで『鑑定スキル』を持った人間を派遣しても、彼のステータスもスキルの詳細も全く掴めなかったのだ。
恋人の小林いちか共々、レベルが三桁であることは解っていたのだが……。
世界中で全く同時刻に観測されている佐島靖。中には佐島靖が同事空間に三人、四人と確認されている報告もあるから、あれは恐らく分身か何かのスキルを保持していると思われる。
ただ、観測に基づく情報から予想されるのは佐島靖の分身は優に百体を越えそうだった。
勿論、全て観測出来るわけじゃないからもっと多い可能性だってある。
――レベル三桁を越える十万匹の魔物を軽く一ひねり出来るほどの分身が、数百体。それも空港などを介さずに世界中どんな場所にでも出現している。
それも、その十倍以上の――これまた一機一機が数十万の魔物をひねり潰す性能を秘めた機械人形を自らの分身の十倍程度の数を伴って。
つまり、佐島靖にはその気になれば一時間足らずで世界を滅ぼすことも支配することも出来る――それだけの武力があることになる。
一度自国に入られたら核も毒ガスも生物兵器も使いづらくなるし、そもそもそれらが対佐島靖に有効なのか不明だし。
そして最後の五つ目は、今のところ地震による被害は多かれど。魔物による死傷者はゼロらしい。
それ故に、今の世界にとって脅威なのは結果としてなんの被害ももたらさなかった数十万の魔物よりも、佐島靖という人間ただ一人なのである。
佐島靖という圧倒的な強者の前では領土も国境も国防も何の意味も成さない。
その気になれば一ひねり。その恐怖は、色んな国の権力者が『佐島靖を殺せ!』と声高々に主張するほどである。
そして、羽島勲にもその恐怖も佐島靖を殺したいという気持ちも痛いほど解った。
例え、職業養成学校にて佐島靖の人となりは多少の危うさこそあれど決して悪人ではないことは間違いなさそうであっても。
彼がいつ世界に刃を向けるか。それを思うと怖くなる。
しかしそれと同事に
「報告を見る限り、今回彼は――寧ろ世界を救っている」
佐島靖の前には国境も人種も関係ない。彼はただひたすらに平等に、世界中に出現した魔物を、一切の被害が出る前に最も迅速に始末してくれた。
実際に何の被害も出なかったから。
実際に何の脅威にもならなかったから。
だから、現場を見ていなければいないほどに魔物よりも佐島靖の異常な強さに恐怖するのは解るが。
それでも、彼のお陰で魔物による被害は出なかった。
それは間違いなくありがたいことであり、彼は地球人にとって間違いなく命の恩人である。羽島勲はそう考えていた。
「と言うか、怖いって言っても殺す方法なんてさっぱりだしなぁ」
恐怖に駆られるままに変にちょっかいを出した結果、佐島靖の逆鱗に触れてそれこそ自国や世界に恨みをもたれる方がおっかない。
方針としてはとりあえず佐島靖には世界救済の功労者として表彰をしたり、お礼金を弾んだり。後はできうる限り優遇しよう。
ただ、問題は国会がどう動くかか。近年はダンジョンによる騒動もあって、ねじれ国会になっているし、それに与党とは言っても一枚岩でもない。
……頼むから、佐島靖をどうこうしようなんて言わないでくれよ。
もし、佐島靖を追い出せと言う風潮が多数派なら、民意なら。総理大臣とは言え、押さえ込むのは難しい。
ただ、そうなったとき佐島靖はどう動くのか……。
それに、羽島勲は任期も迫っている。
この不安定な社会情勢だ。次に当選するかも怪しい。
だからこそ、この任期が終わるまでに佐島靖への厚遇処置を完成させねば……!!
◇
世界中が佐島靖に恐怖したり感謝したりと畏れたり。そんな感情を抱いている中、佐島靖に一際恐怖している神がいた。
「う、嘘でしょ……」
戦闘力だけなら最高神にも匹敵すると言われるゼウスをフルぼっこ。海中なら最高神にすらも勝てると言われるポセイドンにも快勝。
体力を半分まで削ったとは言え、決着の時に全快されているなら何の意味もない。
武闘派の神々128人は、佐島靖の前に正に手も足も出ていなかった。
ステータスは精々、並の上級神クラス。魔力だけは、最高神である自分に匹敵するかもしれないけど……。
でも、それ以上に目を見張るべきは佐島靖のあのカンストを何度も繰り返したスキルの形跡である。
「まだ四桁の壁を越えてない状態でこれ? これ、神々の領域(四桁)に至ったときはどうなるの? どうにかしなきゃ。どうにかしなきゃ。でも、下界で戦うのは怖い――本来は、この神聖な場所に人間なんて呼んじゃいけないんだけど……」
でも、この神の世界は最高神にとってはポセイドンの海のようなものだ。
自分の領域でなければ戦う気分にもならない。それほどまでに、佐島靖は恐ろしい人間だった。
◇
ゼウスをフルぼっこにした後に、いつもの機械音声とは大きく違う『声』が俺の脳内に響いた。
『佐島靖くん。今を持って『神々の試練』は『最高神の試練』へと昇華されました。直ちに神の世界に赴きなさい。私自ら、貴方をひねり潰してあげます』
その言葉と同事に、俺の目の前にはこの世界ではないどこかに通じる門が開いた。
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