第11話 マリアの魔法
サラはマリアとクラブへ行く約束をした。
サラの家族は誰もお酒を飲まないし、タバコも吸わない。
サラは1度でいいからお酒を飲んでみたかった。テレビや映画では、お酒を飲むシーンが多いし、バーやクラブは外を通るとネオンがキラキラしてて、中にいる人たちが楽しそうにやっぱりキラキラしているのを見て不思議だった。
それだけではない。
好奇心だけではない。
自分を知りたいという気持ちがあった。お酒を飲んだらどうなるんだろう。私もあの人たちのようにキラキラ楽しくて輝けるのだろうか?
でも1人で飲むのは怖かった。お酒を飲んだら自分がどうなるのかわからなかった。
ましてクラブや居酒屋に1人で行くなんて想像しただけでも怖かった。マリアと一緒に行っても、たぶんすぐに帰るだろうと思っていた。
金曜日、仕事から帰ってマリアが来るのを待った。どんな服がいいのかわからない。目立つのも困るので落ち着いた紺色のワンピースにした。
コンコン、
「サラー、いるー?」
サラはドアを急いで開けた。
マリアだった。髪の毛がクルクル巻いて肩にかかっている。赤い膝上丈のフレアースカートに白いサマーセーター、大きな真珠の長いネックレスがV字に開いた胸元を隠している。靴は銀色のぺったんこサンダル。それでも足が細く長くきれいだった。サラはジッと見惚れてしまった。
「サラ、良いね、ワンピース似合う。あっ、髪をちょっとだけウエーブつけようか、ちょっと待ってて」
マリアは自分の部屋に急いで引き返し、ヘアアイロンを持ってきた。慣れた手つきで髪を巻いていく。
「ウエーブかかりにくいかと思ってたけど、大丈夫みたい。髪飾りとネックレスは小粒のパールで、と。いい感じ、かわいい、似合う。サラかわいい。私、さすがだわ。こんなにサラのことわかってる」
マリアは満足げにニコニコしている。
「これバッグ、ネックレス、人工パールだから気兼ねしないで、靴は?サイズがたぶん私と同じだと思う。持って来た。履いてみて。わー、いいわ、ぴったり」
マリアはサラのまわりを右に左にヒラヒラ動いていろんな角度からサラを見ている。
サラに純のような性格の姉妹がいたらきっとこんな感じだろう。サラも嫌ではなかった。鏡の中の自分が別人のように可愛く見える。洋服や髪型、アクセサリーで雰囲気が作られていくのがよくわかる。
「ありがとう、マリア」
「女の子は自分の思い通りの自分になれるの。かわいいことでまわりの人を幸せにするの。特権よ。思いっきり可愛くなろう」
「そう、なんですね」
「そうなんですよー、じゃあ行こうか、いざキラキラの世界へ」
「はい」
サラは魔法にかかっているような気分だった。本当に自分なんだろうか?今までの自分では絶対にありえない展開だった。
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