第3話「部下の宮下くん」

 

 朝の新幹線の中で食べる駅弁は至福だ。


 僕の仕事は出張が多いので、新幹線に乗る機会も多い。

 早朝だとまだ売っていなかったりするが、崎陽軒のシウマイ弁当が大好きだ。


 崎陽軒のシウマイ弁当は800kcal以下なので、朝食としてはまあまあだろう。

 しかし、ダイエットを開始した僕には800kcalの朝食は食べられない。


 早朝の新幹線……。

 一体なにを食べればよいのだろうか。


 東京駅構内のコンビニで物色するが、なかなか良さそうなモノは見つからない。


「丸森さん、おはようございます」


「お、おはよう」


 混雑するコンビニの店内で出会ったのは、部下の宮下くんだ。

 宮下くんは僕よりも太っているが、まだ若い。

 そして、太っていることを特に気にしていない感じだ。

 いや、心の奥底では気にしているのかもしれないが……。


「朝食ですか?」


 昼食な訳ないだろう。


「ダイエット中でね、駅弁は食えんと思ってさ……」


「丸森さん、駅弁好きっすもんね……、僕には駅弁は結構高くて……」


 宮下くんの手には、おにぎりが5、6個、鷲掴みになっている。

 もう形が崩れるくらいの鷲掴みだ。


「宮下くん……、朝から食べるね……」


「おにぎりが好きなんでよぉ~」


 僕もおにぎり大好きだよ。

 でも、おにぎりは1個で200kcal以上もあるんだよ。

 5個も食べたら1,000kcal越えちゃうよ……。


「朝のおにぎりって美味いよな」


「美味いっすよね~、あ、サラダチキンも買お……、たんぱく質大事っすよね、はは……」


「だ、だね……」


 駅弁を高いと言っていた宮下くんは、おにぎり6個とサラダチキン2個を買って新幹線口のほうに歩いて行った。


 たぶん二千円近いぞ……、あれは……。


 あ、そういえば……。


 前に宮下くんと隣同士になったとき、そういえば駅弁を3つ食べていた。

 それに比べれば、まあ、二千円は安いか……。



 結局、僕は200kcal程度のチキントルティーヤとSAVASココアミルクのプロティン(102kcal)を買って急いで新幹線に向かった。


 ホームを歩いているとき、新幹線の中でおにぎりを旨そうに頬張る宮下くんの姿を見かけた。

 漫画のような美味しそうな笑顔でおにぎりを食べる宮下くんを見て、素直に羨ましかった。


 筋トレを始めるときっと炭水化物が必要になる。

 その時はおにぎり1個、大事に食べよう。


 僕はそう心に決めた。



 東京駅を発車して、品川を過ぎたあたりで駅弁をあける。

 新横浜を過ぎ、都会の景色から田舎の景色に移る頃、弁当を食べ終わる。

 ボーッと景色を眺めながら……


 727の看板が目に入る。


 なんの看板だろう。

 もう何年も疑問のままだ。

 調べることもしないので、ずっと謎だ。


 新幹線に乗っている多くの人が、727はもう謎でいいと思っていることだろう。


 と、いつもなら、こんな感じだ。


 出張を楽しむには、駅弁は良いツールだと思う。

 少し値段がお高いが……。


 しかし、今回の旅のお供はこいつらだ。


 サラダチキンのラップロール(トルティーヤ風) 200kcal

 SAVASココアミルク 102kcal



 品川から新横浜までの間で余裕で食べ終わる。

 旅の感覚はありません。


 しかし!


 このコロナ鍋、いやいや、コロナ禍において、新幹線は隣の人がいないことが多いのです。

 と言うことは、隣でガツガツ駅弁食べてくる攻撃がないので、ダイエットのストレスは少し軽減されると感じます。


 いや、ダイエット初期は本当に辛い……。

 

「お、丸森さん、ストイックっすねぇ~」


 トイレに向かう宮下くんが余計な一言を掛けて通路を通り抜けていく。

 宮下くん、おにぎりは美味しかったかい?


 僕のダイエットはまだ始まったばかりだ。

 手探りで、自分なりに進めていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

太っちょおじさんはモテたいがためにマッチョになる。 カロアン・リミテッド @calounlimited

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ