76話 大いなる誤算
「皆聞きや。五つ目の檻の奴ら出てきたら最大警戒や。一匹一匹がみんなと
ルイのこの言葉に、第四の魔人と交戦していた
「それに後ろにのさばっとる人間。あれが気になってしゃーないわ。だんだん均衡してくる状況でアレほっといたら後からえらい目遭う。せやからアイレはん」
「?」
「
「いいよ。どう考えても今の相手よりマシでしょ」
「ふふっ、ほな頼みます。頃合い見て離れてもろてええからね。ほんでウギョウ」
「はっ」
「百人連れてアギョウと合流や。お主らで三番目の檻の奴ら全滅させい」
「「はっ!」」
「ガリュウはんはウチと引き続きよろしゅう。百人減ったけど堪忍や」
「一人でもやってやらぁ!」
「頼もしいわぁ。ウチも頑張るさかいに」
こうして次なる布陣が決まり、折よく敵陣で暴れまわっていたルイとアイレの魔法が解けてゆく。
「あ、そうそう。
――――おぅ!!
「はな、二回戦始めるでぇ!」
◇
次なる戦が始まった。
指示通り、ルイとガリュウの部隊五百人とアギョウ、ウギョウの部隊六百人が敵と交戦を開始。アイレ率いる
対するジオルディーネ本軍二万は、視界を覆っていた砂塵が晴れたかと思うと、突然こちらに猛スピードで向かってくる
「慌てるなぁ! たったあれだけの人数で我らに向かってくるなど所詮亜人の浅知恵だ! 魔法師隊攻撃準備! ――放てぇ!」
敵本軍に突撃していたアイレ達に、火球、水弾、氷針といった凄まじい数の攻撃魔法が降り注ぐ。
「みんな! 消し飛ばすわよ! 力の差を見せつけるよ!」
「おぅ!」
ゴォォォォォォ!
「行くわよっ!」
アイレの号令で再突撃が始まり、ジオルディーネ軍の頭上に百の風が刃を持って舞う。次々に斬り倒されてゆく味方にジオルディーネ軍は混乱を期するが、如何せんその数は二万。
アギョウ、ウギョウ率いる部隊も敵第三の魔人に優勢に戦いを進めるが、既にアギョウとウギョウを含め、無傷の者はいない。数的優位に立ちながらも死んだと思った敵が復活し、死角から攻撃されるのだ。
先程まで第四の魔人を相手に戦っていたウギョウは、思いの外傷が増えている。敵が弱くなったからこそ生まれた油断で受けた傷。
「ウギョウ、先程から油断が過ぎるぞ」
「すまぬ。相手の戦闘力が先程とあまりに違ってな。傷は大したことは無いが、それが逆に恐ろしいのだ」
「何が?」
「最後の檻だ。三番目と四番目でこれ程の戦力差があるのだとしたら…」
「俺は四番目とやって無いから分からんが、仮に俺達二人と同等の力を持ったのが百体出てきたら、そいつらと戦えるのはルイ様とガリュウ殿しかおらん」
第三の檻の魔人250体
第四の檻の魔人200体
ジオルディーネ本軍2万弱
亜人軍1200人(死者ゼロ 傷者1200人)
◇ ◇ ◇ ◇
「成功です。気分はどうですかな? ベルダイン殿」
ベルダインと呼ばれた男は深呼吸をし、拳を開閉する。これまで感じたことの無い力の波動に、興奮を覚えていた。
「…悪くない。力が漲るようだ」
「一週間は核の安定の為、大きな力は使わない方がよいですよ? 力が暴走しかねませんからね」
「はっはっは! 私はそのような軟弱では無いが、メフィスト殿の言う通りにしておくとしよう」
「それにしても流石でございます。B級魔力核をこうも容易く制御なさるとは。だが眼には出てしまっておいでですので…」
「私に掛かれば容易い事よ。眼の事は案ずる必要はない。既にこの国では強者の証だからな! では失礼するメフィスト殿。貴殿は既にパルテール・クシュナーを超えられたのではないかな? フフフ…ハーッハッハ!」
ジオルディーネ王国魔導研究省。マントを翻し、研究室から出ていったジオルディーネ王国騎士団長をメフィストは
(ククク…あの騎士団長が力欲しさに人間を辞める程の馬鹿だったとは…隷属の魔法陣を刻まれているとも知らずに! 実験動物にしては上物だろう。さーて…ラクリ組はどうなったかな?)
「楽しみだっ!…ひゃっひゃっひゃっ!」
「わっ! なんです急に!」
「あー…想像したら笑いがこみ上げて来てな! うひゃひゃひゃ!」
「勘弁して下さいよ…あ、そういえばメフィスト様。A級核が手に入ったそうですよ。元Aランク冒険者の魔人達がアピオタウロスを倒したようです」
「おお、
「A級は滅多に手に入らないのに、流石魔人ですね」
「魔人共じゃない! 俺様が偉大なの! 俺様が!」
暗躍するジオルディーネ王国魔導研究省の魔の手は、自国の騎士団長をも侵食し、王国全体を黒く染めていく。
◇ ◇ ◇ ◇
「ルイ様! アギョウ殿らが第三の魔人を殲滅しつつあります!」
「そらええこっちゃな。こっちもそろそろ片ぁつけんとカッコ悪いで! ガリュウはん!」
バシュン! バババババ! バチッ!
『ギャァァァァ!』
九尾を振るい、無傷で無双するルイは同じく無傷で暴れまわるガリュウにハッパを掛ける。
「うるせぇ! 俺はてめぇみてぇに九本も腕ねぇんだ…よ!」
ドゴン!
『グガァァァ…』
アギョウとウギョウの部隊が第三の魔人兵を殲滅し、ルイ達も第四の魔人兵を掃討しつつある現状を見て、ジオルディーネ軍長のバーゼルは信じられないといった目で戦況を見ていた。
本軍を急襲した
(敵ながら見事なものだ。C、D級の魔物と同等の力を持つ魔人兵千五百体でも歯が立たんとは。あいつらは制御しにくいが致し方あるまい…)
「おい! 第五の―――」
バーゼルが指示を出そうとした瞬間、
バガン!
「なっ! あいつら! …まぁいい、そのままやらせろ!」
「はっ! 全軍距離を取れ! 第五の檻が開かれたぞ!」
第五の檻が中から破壊され、檻の破片が戦場にまき散らされた。降り注ぐ鉄塊を敵味方問わずに避け、亜人達の視線は破壊された檻に向けられる。
「んんーっ! しょっと! バーゼルのオッサン開けるの遅すぎ!」
中から出て来たのは十人の人間。その内の一人が大きく伸びをし、不満気な言葉を放った。
「ん? 普通の人間? しかもえらい少ないやない…っつ!」
意外にも第五の檻から出て来たのは、真っ黒な魔人兵ではなく普通の人の姿をしていた。しかも数百人どころか十人という僅かな手勢だ。
しかし、ルイが十人の魔人を直視した瞬間悪寒が走り、尾の毛が逆立つ。
「全員この場から離れ!」
「遅い。 ―――
「くっ! 敵味方お構いなしかい!」
ズドォォォン!
魔人の一人が発した火属性魔法は上位に属するもの。亜人と魔人の戦場全体を巨大な爆炎が包み込んだ。
「うわぁぁぁぁ!」
『ギョエエエエエ!』
「ぐっ、クソがぁぁっ!」
『ボアァァァ!』
この攻撃により第三、第四の魔人は全滅。
ここで気を吐いたのは
ドガッ!
「ぐはっ!」
横から強烈な大盾の一撃を食らい、地面に叩きつけられる。一撃を加えたのは魔法師を守るかのように立ちはだかる、大盾を持った大男だった。
「竜のおにぃさーん。いきなり
そう言葉を発した女の両手には、二本の
その眼は真黒で赤い瞳。到底人間の目とは思えない。
ガリュウはこの戦い始まってのダメージに驚く暇も無く、言葉を発した”人間らしい魔人”を警戒した。
「なんだてめぇ。まともに喋れんじゃねぇか」
「そりゃあねー。なり損ないと一緒にされても困るかなぁ」
「なり損ないやて?」
チリチリと毛先を焼かれながらも、スッと立ちあがったルイが質問を投げかけた。
「そゆことー。こいつらほぼ自我無いっしょ? 弱いやつはこうなるんだよぉ」
つまり、今まで戦っていたのは魔人のなり損ないで、今目の前にいる表情豊かな女を含めたこの十人が真の魔人だという事である。
「なるほどねぇ。だからあんたらは話も出来るし、眼ぇ以外は黒くもなっとらんっちゅー訳かいな」
「おしゃべりはそこまでだニーナ。何も知らずに死んで行け、亜人」
「えーっ、いいじゃんゴドルフ! 檻ん中退屈だったんだもん! ソルムとドルムの兄弟は全然喋んないし、私エンリケ嫌いだし! それにあっち知らない人達だし!」
「ぼ、僕ニーナさんに何かしましたっけ…?」
「ウジウジしてんのがキモイのよ!」
「そ、そんなぁ…」
「始まったらすぐ終わっちゃいそうだし、ちょっとぐらいいいじゃん! それにこの狐さん女王様でしょ? お会い? お目に? どっちでもいいや、お目に掛かれて光栄でゴザイマスー」
ははーっと
「王を侮辱して生きて帰れると思うなよ! 魔物風情が!」
「や、止めっ!」
怒りに任せて飛び掛かった
ズドン!
「がふっ!」
ルイの目の前で上下真っ二つになる。周りにいた者達は返り血を浴びるまで、ルイとガリュウ、それにアギョウとウギョウを除き、何が起こったのか分からなかった。
第三・四の魔人全滅
ジオルディーネ本軍19000人
第五の魔人10人
亜人軍700人
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