75話 激突
「全員左右に散開っ! ルイ様の巻き添えを食うぞ!」
黒いうねりに突撃した亜人軍は、狛犬の獣人ウギョウの一言で中央にルイ残したまま左右に割れる。
ルイは開幕の初撃を魔人に浴びせるべく、接敵手前で大きく跳躍。
紫電を帯びた九本の尾が互いにぶつかり、ドンッドンッと音を立て、戦場に大太鼓のような重低音が響き渡った。
「逝っとけや! ―――
ビッシャァァ! ズドドドドドド!
『ギャァァァァ!』
ルイの前方に凄まじい雷が降り注ぐ。まともに食らった魔人は感電する間もなくその質量に消し飛び、
だが思ったより減っていない。やはり普通の人間の兵士とは訳が違うようだった。身体の一部に損傷を受けた者は既に再生しつつある。
(個体の戦闘力が人間とは桁違いや…人間の魔法技術と魔物としての魔力の総量が厄介やけど、これぐらいやったら何とかいけそうやな)
ルイの盛大な開幕初撃を見届け、亜人軍は魔人兵に突撃し大乱戦が始まった。
ドォォォォォォ!
―――うおぉぉぉぉっ!
亜人は人間のように魔法体系を確立しておらず、個人が何種類もの属性魔法を使える訳では無い。種族ごとに生来持ちうる七大属性があり、
戦いに長けた亜人というのは、属性魔法を鍛え、戦う技術と敵を葬る覚悟を持つ者をいう。
ルイを含めた
ガリュウ率いる
「オラオラオラァ! こんなもんかぁ!」
『ワギャァァ!』
ガリュウに群がる魔人兵は一撃で形を変えられていく、幾度も再生するがその度に襲い来る炎の拳で壊され、燃やされ、最後は魔物の様に消えていく。
「こいつら死に方も魔物じゃねーかよ! 人間やめて哀れなもんだなぁおい!」
「人間ならとっくに逃げてもおかしく…ないっ!」
ドシュッ!
『ウオァァァ…』
アイレは宙を舞いながら、むき出しの魔力核を的確に狙って敵を霧散させていく。どれだけ再生能力を持とうが、魔力核を破壊すれば魔物は死ぬ。弱点をさらけ出している相手など、アイレにとって敵では無かった。
「普通の判断が出来ねぇ証拠だ! 全員一匹も生かすんじゃねぇぞ!」
―――おうっ!
一方のルイも雷を纏った九尾を振るい、バシュンバシュンと敵を
それに残りの檻に居る魔人兵が、同じ強さな訳が無いとルイは予想する。もし同じ強さなら、一つ目二つ目と同時に出して物量で押した方が有利だからだ。
「皆! 次ん檻は多分
『はっ!』
魔人兵残数200体
亜人軍1200人(死傷者ゼロ)
ルイの読み通り、ジオルディーネ軍長のバーゼルは次の檻を空けるよう指示する。
「やはり弱った奴隷では獣の相手にはならんか…おい! 第三、第四の檻を開けろ!」
「はっ!」
ゴゥンゴゥンゴゥン
次に開けられた二つの檻から同じく魔人兵が解放され、三つ目の檻から一千体、四つ目の檻からは半分の五百体が出現した。
「魔人兵よ! 獲物は目の前の獣共だ! 蹂躙せよ!」
ドドドドドドド!
バーゼルの一言で乱戦に突撃してくる黒い波。しかし、第一波と明らかに違う点が一つあった。
「次はちゃんとした服着てるんやねぇ」
「あっちの檻の奴らはみんな武具付けてるわね」
「こいつらが本命ってか! ちったぁマシなんだろなぁ!」
ガリュウはそう叫ぶと、目に付いた武具持ちの魔人に飛び掛かり強烈な蹴りを浴びせるが、手に持った剣で防がれる。
ガキィィィン!
(へぇ…この動きは)
ドガガガガ! ガシュン! バキッ!
『グガァァァ!』
「はっ! まだマシなのが居やがるぞ! こっちの武具持ちは騎士か冒険者だ!」
ガリュウ達
戦場は乱戦でここまで種族ごとに固まって戦っていたが、ここへ来て初めてルイが自軍に指示を飛ばす。ガリュウの言葉で、戦力を配分する必要があると判断したからだ。
「アギョウ! ヌシの部隊はアイレはんと合流して残敵掃討! 片ぁ付いたら三つ目の檻の服着た奴ら殲滅したれ! ウギョウ! ヌシの部隊はウチと
「分かったわ!」
「はっ!」
ルイとウギョウ率いる五百人の
第一、第二の檻の魔人兵全滅
第三の檻の魔人兵700体
第四の檻の魔人兵450体
亜人軍1200人(死者ゼロ 傷者500人)
◇
ビッシャァァァ! バチッバチッ!
『ギャァァァァ!』
キンキンキン! ガキン! ズバッ!
「ぐあっ! く、くそっ!」
「ってぇな!」
「はぁはぁ…魔物ごときがしぶとい…」
武器術を使う者、防御に秀でている者、属性魔法を使う者達が出てきて、亜人軍の戦いも敵の向き不向きが顕著になってきた。せめてもの救いが魔人兵が戦術を使ってこない事である。
個々の戦力差は圧倒出来ていても、人数差は埋められない。仮に魔人を掃討しても二万の人間が後ろに控えている。二万の人間は亜人と魔人兵の戦いの巻き添えを食らわないよう、静かに戦いを見守っている事は亜人の全員が気掛かりとなっている。これが見えないプレッシャーとなり、亜人達の動きを鈍らせている事は明らかだった。
(このまま粘り勝ったとしても五つ目の檻がある…もし戦術
ルイは戦いながら戦況を分析する。善戦程度では今の状況はよくない。後を考えても圧倒していなければならない状況なのだ。
チラッとガリュウの方を見るが、何体も相手取り圧倒しているように見えるが、徐々に疲労の色が見え始めているし、アイレとアギョウも半数近くまで減らしてはいる様だが、やはり怪我人が増え始めていた。
「全軍立て直しや! 乱戦解いて一旦引く! ウチとアイレはんで
「了解よ!」
「チッ!」
「「はっ!」」
ガリュウもこのままではマズイと感じていたのか、不満顔をしながらもルイの指示に従う。
「全力で邪魔させてもらうわっ! ―――
ズゴォォォォォ!
撤退する亜人軍とそれを追う魔人の間に、地表から突如巨大な五本の風の渦が砂塵を巻き上げ立ち塞がる。視界を奪われ、魔人兵は進む勢いを緩めざるを得ない。
「おまけ付けたるわ! ―――
白く輝く巨大な
ビシッ! バチン! バチバチバチバチ!
『ギガッ! ガガガガガ!』
『ギャヒィィ!』
『ゴガァァァァ!』
「ふぅ、これで少しは時間稼げるはずや」
自陣に戻ったルイとアイレは息を整え、自軍の状況を正確に把握する。
思った以上にダメージを受けている者が多い事に焦りを覚えたルイは、事前に想定していた次なる作戦を伝える。
第三の檻の魔人兵500体
第四の檻の魔人兵350体
亜人軍1200人(死者ゼロ 傷者600人)
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