49話 帝都出立
「「乾杯!」」
ゴキュゴキュッと喉を通るのど越しがたまらない。テーブルに置かれた肉料理にはやはりラガーが一番合う。香り豊かな果実酒もいいが、今日はこっちだろう。美味い料理に舌鼓を打ちながら、俺はふと報酬の件を思い出しユーリさんに聞いてみた。
「そういえばユーリさんは報酬を受け取ったのですか?」
「泣きじゃくるノーラさんから受け取ったよ。金貨五枚も貰って驚いたよ。依頼の報酬は銀貨三枚だったのに。やっぱり素材が高かったのかな? 冒険者ってすごいんだな!」
ふむ。ユーリさんはまだ魔力核や素材の相場を知らないようだ。ゴブリンの魔力核も
「あのユーリさん、とても言いにくいのですが…本来の報酬は銀貨一枚に大銅貨一枚と中銅貨一枚です。銀貨三枚と言うのは依頼の総額であって、通常はパーティー内の取り決めでその配分が決まります。今言った金額は私とユーリさんで等分にした場合の金額です」
「えっ!? そうなの!?」
「はい。それにゴブリンと一角兎の素材も全部で大銅貨二枚と言ったところでしょうか。つまり、今回の金貨五枚と言うのは、緊急依頼が関わっていると思います。ユーリさんが竜の出現をアイザックさんに伝えて、生きて帝都に戻ったという事が増額の根拠だと思いますよ」
「そうだったのか…ノーラさん泣いてばかりで何にも言ってなかった。それを聞くとやっぱり冒険者も楽じゃないんだな」
「それは彼女が悪いです…ですがその通りです。怪我をしたら依頼をこなせませんし、薬を買ったり装備を揃えたりと冒険者は結構物入りなので、ユーリさんもこれから頑張って下さいね!」
「わ、わかったよ! ジン君に会えて俺はホントラッキーだったな!」
食事中、ユーリさんにこれからもパーティーメンバーとして色々教えて欲しいと請われたが、俺は近い内に帝都を出て西に向かう事をユーリさんに伝え、丁重にお断りした。とても残念がってくれたが、『ジン君ほどの冒険者が安全な帝都にいるのもよく考えたら勿体ないな』と言って、気持ちよく引いてくれた。
猫又亭を出て、俺とユーリさんはまた会える事を祈って握手を交わす。
「ジン君。改めて君のパーティーに入れて俺は幸運だった。いつか必ずこの恩は返すよ。今度は俺も君の役に立てるよう、最低一日千回、槍を振るう事を誓うよ」
「ははっ、私もユーリさんに負けないよう鍛錬は怠りません。またお会いできる事を楽しみにしています!」
そうして俺達は別れを告げ、それぞれの道を歩む。
◇ ◇ ◇ ◇
数日後、俺はアルバニア冒険者ギルドを訪れた。黒王竜の素材の受け取りと、帝都を出る事を伝える為だ。
「あっ、ジン君! おはよう!」
「おはようございますノーラさん」
「素材の受け取りよね。用意してます! こちらになりまーす」
目の前に置かれたのは、凍った巨大な肉の塊、自分の胴体程の大きさの鱗三枚と腕程の大きさの牙。
俺が一番欲しかったのは傷一つ付けられなかった黒王竜の鱗。黒光りするその鱗はずっしりと重いが、同じ大きさの鉄よりも軽く感じる。満足げに眺めた後収納し、今日の本題に入ろうとするが彼女の次の報告で、思考が遮断された。
「で、ジン君。黒王竜の素材買取か全て完了しました! しめて…白金貨二十枚になりました! 大金貨で二百枚になるけどどうする? バンクに入れておく?」
「サラっと言わないで下さいよ…」
とんでもない金額になったものだ。正直使い道が分からない。アイザックさんに前もって寄付は受け付けないと言われているし、しばらくバンクに眠っておいてもらおうと思う。俺は金袋を確認し、路銀に足る分だけを受け取る事にした。
「えーっと、金貨五枚と銀貨二十枚、それに大銅貨二十枚下さい。残りはバンクに入れておいてください」
「了解しました!―――はい確認してね!」
ジャラっと目の前に出された硬貨を金袋にしまい、ようやく本題に入る。
「ノーラさん、今日―――」
「ちょっと待ってジン君! 覚悟するから! ……どうぞっ」
「ははっ、ノーラさんは楽しい方ですね。今日、帝都を出て西へ向かいます。短い間でしたが、お世話になりました」
深々と頭を下げ、感謝を述べる。
「やっぱりなぁ…そんな気がしてたんだよね。ちなみに行き先は決めてるの?」
「はい。とりあえずグレイ山脈に接するドッキアを目指します。その後の道中は決めていませんが、ミトレス連邦に入るつもりです」
「そっかぁ、長い旅になるねぇ。お姉さんは死ぬほど寂しいです。また帰ってきてくれますか?」
「もちろんですよ。いつになるかは分かりませんが、死ぬつもりはありません」
「西は魔物も多いし…っ、同盟国のピレウス王国はミトレスの一国と戦争中って、これは伝えたよね…ぐすっ…どうか元気で…身体に気を付けて、行ってらっしゃい!」
ベッドの上で見た涙とは違って、最後は笑顔で見送ってくれるノーラさん。
彼女はギルドの情報網を使い、世界の情勢を色々教えてくれていた、帝都で一番お世話になった人だ。俺との別れをこんなにも惜しんでくれている。
色々心配もかけたが、また無事にここに帰って来る事でこの恩に報いるとしよう。
「はい! 行ってきます!」
俺は笑顔でアルバニア冒険者ギルドを出発し、次なる目的地、ドッキアへ向かう。
◇ ◇ ◇ ◇
所変わってここはスルト村。
ジンが帝都を出立してから数日後の話である。
「貴方、帝都のギルドマスターからお手紙が来ていますよ」
「んー? なんで帝都から? どれどれ―――」
ロンは関りの無いアルバニアギルドマスターから突然の手紙を
―――感謝状―――
ロン・リカルド
ジェシカ・リカルド 殿
ご子息ジン・リカルド殿の一騎当千の働きにより
帝都アルバニアに飛来した黒王竜の討伐に成功致しました
さらにギルドの運動にご協力頂き多額の報酬を寄託されました
帝国の安全および冒険者ギルドの発展に寄与されたご子息の
功績は誠に多大であります
ここにジン・リカルド殿に
帝都民を代表し深く感謝いたします
アルバニア冒険者ギルドマスター
アイザック・ベルシュタイン
「な、なんだこれ? 黒王竜? 倒した…ジンが?」
「あの子ったら…またそんな無茶したのね」
その後、我に返ったロンはエドガーとオプトに知らせると、村は大騒ぎとなった。
「
「まだ半年ぐらいじゃねぇのか? ジンが旅に出てから。」
「何かやる奴とは思ってたけど、帝都で英雄になりやがった!」
「スゲーなジン!」
「なぁ、オプト」
「んー?」
「俺達の息子はやっぱとんでも無かったな! がっはっは!」
「だなー。もう訳わかんねぇよ。黒王竜倒すって…この短期間でどんだけ強くなってんだあいつ」
思い思いに皆ジンを懐かしみ、称えている。
そんな中、ロンとジェシカは心配でならなかった。
「嬉しいような、怖いような」
「そうですね。帝都の人達を守った事は誇らしいですが、きっと大怪我を負ったに違いありません」
これからもジンは何を成しても両親に心配されるのかもしれない。
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