38話 川底のダンジョンⅢ

「……」

「見たっすか今の」

「あの子ホントにGなのぉ~?」

「ありえない。あの規模で発動までの時間が短すぎる」


「すみません。次にこっちに向かってくるヤツは見た事が無いので、お願いしてもよろしいでしょうか?」


 ズン、ズンと足音がここまで響いてくる。


「ジン。次のヤツにもう一度出来るか?」

「できますけど…」

「この辺でこの足音はゴレムスだ。これまでの奴らより数段強い。だが今の魔法を使えるなら、いけるかもしれない。もし倒せたらお前はもう合格だ」

「俺は逆にジンの戦いが見てみたいっす! ダメだと思ったら加勢するっす!」

「デイト、水魔法の準備を頼む」

「おっけ~♪」


「わ、わかりました! やってみます!」


 敵はゴレムスと言うらしい。足音からして相当な巨体だろう。だが、ここで倒せばアーバインさんは合格だと言ってくれている。断る理由は無い。やってやる。


 もう一度地魔法の準備をして会敵に備える。そして、雄叫びを上げて現れたのは、細かな石を積み重ねたかのように見える巨人だった。


『ズモォォォォォ!』


「くらえ!―――地の隆起グランドジャッド!」


 ズガン! 


 石の巨人がそれと同様の大きさの土壁に挟まれ、身動きが取れなくなる。が、潰すことは出来なかったようだ。そりゃそうだとつぶやき、即座に腰にある舶刀二本を抜いて仕留めにかかった。


 果たして刃が通るかどうか。


 気合を入れ、ゴレムスの足に斬撃を入れる。ガキンと刃は弾かれ、相手にダメージは無い。石の巨人は雄叫びを上げ、土壁を破壊して脱出。足元にいる俺に向かって、両拳を振り下ろした。


 ズゴォン!


 後ろに飛んでこれを回避。地面に大穴が出来ている。強化無しの生身でまともに食らったらあっさりと潰されて死ぬだろう。久々に死と隣り合わせの戦いの緊張感を味わう。


「おもしろい!」


 全身強化を掛け、舶刀も同時に強化する。ゴレムスの振り下ろされる拳を二本の舶刀で受け流し、その勢いで跳躍。顔面に斬撃を入れると、次は傷を与えられたようだ。強化すれば攻撃が入る。


「あああああ!」

『ズモォォォォォ!』


 もうゴレムスの動きは見切った。拳を全て避け、次々と斬撃を入れていく。動きが読めればもう相手ではない。このままダメージを与え続ければその内倒せそうだが、時間がもったいない。即座に俺はそう判断し、戦いを終わらせる連携攻撃に入る。


「―――地の隆起グランドジャッド!」


 開幕初撃と同様に再度土壁を作り出し、ゴレムスを挟み込む。そして、一瞬身動きができなくなる相手へ固有技スキルを叩きこんだ。


「―――流気旋風バーストストリーム!」


 シュシュン!


 風の刃を纏った二連撃はゴレムスを容易く切り裂いた。


『ズモアァァァァ…』


 ゴレムスは三つに分かれ、断末魔と共に消えていった。


 強化魔法を掛けたまま地魔法を発動、その後即座に風魔法を発動するという流れはよくできたと思う。少しやり過ぎたかもしれないが、初見の相手に手加減は無用だ。


 遠視魔法ディヴィジョンで付近にもう魔物がいない事を確認し、納刀する。


 「ふぅ…」


 後ろに控えていたパーティーの元へ戻ると、ガンツさんは大喜び、あとの三人は目を剝きながらも俺を歓迎してくれた。


「うおぉぉぉ! ジンすげぇっす! もう俺らのパーティーに入るっす!」

「あなた今の強化と風の同時発動よねぇ、あなた何者なのぉ?」

「ありえない戦闘力。すぐに上級に上がるべき」

「言葉も無いぞ。その年でもう固有技スキルが完成形の域に入っている。見事だった」


「あ、ありがとうございます!」


 皆にワシャワシャされつつ、今回はここでダンジョンを出る事になった。今日は俺のテストという事で、それほど深く潜る準備はして来ていないらしい。


 魔法陣で一瞬で入り口に戻ると、もう日は落ちていた。ふと気になったので、魔法陣を使って中に入れないのかと聞いてみたが、できるなら皆とっくにやってるさと言われ、自身の間抜けな質問にうつむく。


 手元にはゴレムスが落とした魔力核がある。あの巨体で拳にも満たない大きさに拍子抜けしたが、初めて見る魔力核は淡く青に光っていた。なかなかに綺麗だと思い、夜空にかざすと月明りで光度が増し、より綺麗に見えた。


 最初、テストのお礼にと魔力核をアーバインさんに渡そうとしたが、『見くびってくれるな。初討伐の品を俺達が受け取る訳ないだろう』と言ってくれたので、大人しく頂く事にした。


 だが、飾るところも無いし、持っていても荷物になる、売ったらどれくらいになるのだろうか。相場を知るいい機会かもしれない。


 魔力核は魔物が強くなるにしたがって大きくなり、更に色も変わるらしい。今日くらいの難易度なら、大して苦労なく一人で行けそうだ。また機会があればダンジョンに挑んでみようと思う。


 森で手軽な獣を狩って、皆で食事をしながら俺の話になる。色々話している内に、どれだけ俺が初級者として抜きん出ているかと、なぜか皆が熱く語ってくれていたが、俺はまだまだ未熟の一点張り。あきれる皆をよそに、俺は肉にかぶりついていた。


 その日は休憩所で一夜を過ごし、翌朝皆でマイルズに帰る事になった。



◇ ◇ ◇ ◇



 ジンが寝床に着いた後、アーバインとガンツ、デイトリヒとシズルの4人は、改めて今日のジンについて話し合っていた。彼らはギルドからの依頼として、ギルドマスターのレイモンドにジンの戦闘力や人間性についての評価を求めれられている。だが、ジンがアジェンテの推薦を受けている事は聞かされていない。


「さて、ここからはギルドの依頼についてだ。まぁ聞かなくても分かるが、ジンの戦闘力と人間性についてだ。Fランクに相当するか否か」


「するっす。つか、俺はマジでBか俺らと同じAでもいいと思うっす。奢りも見えねぇし、まだまだ強くなるっすね」


「あたしもガンツに同意だけどぉ…あえて言うならぁ、実力に人間性が追いついて無いわねぇ。いい意味で歪んでるわぁ。いい子なんだけど、もっと自信を持ってないとぉ、これから色々とつまんない苦労すると思うわぁ」


「Bでいい。Fに置いておくのはギルドとしての損害に当たる。何より好奇心と探求心は素晴らしい」


「俺も実力については同意見だ。あいつは間違いなくA級でもおかしくない実力だ。だがデイトのいう事も最もだ。今日だけで判断するのは早計だが、上級ランクに上がる前に、後進の育成も出来るようになっておくべきだと俺は思う。あの過ぎた遠慮がちな性格と経験値では、まだ難しいだろう」


「むぅ。一理あるっす」


「確かに。未熟未熟と言い張っていたのも、もしかしたら自分に欠けているものも、分かっているのかもしれない」


「そうだとしたらとんでもない子ねぇ~。どれだけのかしらねぇ」


「末恐ろしいのは間違いないがな。という事で、俺はあえて中級のDランクまでのポイントを与えるべきだと考える」


「それがジンの為になるんだったらそれでもいいと思うっす! ジンならあっという間に自力で上級まで上がると思うっす!」


「さんせーい」


「……勿体ない気もするけど、それでいい」


「よし、ではそのように報告する。改めてお疲れさん!」


 明日は早朝から立つ予定だ。川底のダンジョンは行きは舟が使えるので早いが、帰りは陸路となり途中森にも入らなければならない。皆もさっさと寝床に付く。


 ジン評価会議はこれにて終了。

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