怪我した、治して副長さん〔ランテ、セト、ユウラ、テイト、アージェ、リイザ〕
【アージェ】
セ「アージェ、ちょっと待て。腕、怪我だ」
ア「へっ、あんだけ大勢でかかってきておきながら、これが精一杯とは笑っちまうぜ」
セ「いいから診せろって。お前痛覚あるのか? この怪我に気づかないって相当だけどな」
ア「お前にゃ言われたくねえ」
セ「一応オレは負傷には気づいてる。いちいち治してられないだけだ。……はい、完了」
ア「おいセトてめえ!」
セ「なんだよ?」
ア「跡形もなく綺麗に消しやがって、どうしてくれんだ!」
セ「は?」
ア「戦士にとっちゃ傷跡は名誉なんだ、血を止めるだけにしてくれっていつも言ってるだろうが」
セ「いやお前、いちいち加減しろって? そんな面倒なことしてられるか」
ア「そりゃもちろん、怪我を治してもらえることに関しちゃ感謝してるぜ。ありがとな。けどよ、お前がいつもいつも綺麗さっぱり治しやがるせいで、お袋にちゃんと仕事してるのかって疑われてんだ」
セ「そこまで面倒見てられない。自分で何とかしろよ。それにしても、傷の有無で仕事してるかどうか量るとは……さすがはお前の親御さんだな」
ア「そりゃ褒めてんのか?」
セ「当然だ。そうなるまでに、相当気苦労かけてきたんだろ。親孝行しろよ?」
ア「そりゃま、ガキの頃は毎日のように頭切ったり骨折ったりすっげえ痣作ったりしてたっけか。たまには顔見せるかねぇ」
【ランテ】
ラ「セト、ごめん」
セ「気にするなよ。黒獣にしては動きが早かった。無理もないさ」
ラ「うん……」
セ「軽い怪我でよかった。……よし、ちょっと腕動かしてみろよ」
ラ「大丈夫だよ。もう全然痛くない」
セ「なら、戻るか。一応支部長に報告を」
ラ「ちょっと待って、セト」
セ「どうし――っ」
ラ「ほら、やっぱりセトも怪我してる。たぶん、オレを庇ったときだ」
セ「……ばれてたか。結構目ざといな、ランテ」
ラ「目ざといじゃない、ってユウラなら怒ってるとこだと思う」
セ「そうだろうな。まあ、大丈夫だ。すぐ治せるし」
ラ「なんですぐ治さなかったか聞いていい?」
セ「…………」
ラ「じゃあ当てる。オレがセトの怪我に気づいたら気にすると思ったから。違う?」
セ「怪我はオレの力不足だ。あと一歩踏み出しが早ければ済んだ話だからな」
ラ「そもそもオレがちゃんと避けられてたらこんなことにはならなかったし、オレが言いたいのはそういうことじゃなくて」
セ「怪我は早めに治せ、か? そうだな。気を付けるよ」
ラ「それもあるけど、セト、今回結構無茶な庇い方だったと思う。現にオレよりセトの方が怪我が重い。助けてもらったオレが言うのもどうかと思うけど、でもセト、無茶は駄目だ。多分オレがあのまま攻撃を受けていても、怪我はしたけど命が危ぶまれるようなものにはならなかったと思うんだ。だから、オレがそのまま受けてもよかった、と思う。セトに無茶させるよりもそっちの方がよかったんじゃないかな」
セ「確かにあのままでも、そこまで重篤な怪我にはならなかった気はしてる。ただな、ランテ。癒しの呪は、自分自身に使うのが一番楽なんだよ。だからお前に怪我させるより、オレが怪我した方が効率が」
ラ「怪我に効率がいいも悪いもないよセト!」
セ「気遣いはありがたく受け取っておくよ。ありがとなランテ。ただ、ま、条件反射で身体が勝手に動くんだ。なるべく気を付けはする、ってことで」
ラ「あ、セト、待った! ……口だけっぽいな。ユウラの気持ちがよく分かった気がする」
【ユウラとリイザ 】
リ「セート、言いつけ通りちゃんとユウラ連れて来たわよー」
セ「ありがとなリイザ、助かる」
ユ「こんな時間に珍しいわね。何?」
セ「背中か腰か。多分背中だと見てるんだけど、違うか?」
ユ「……別に、大したことないわ」
リ「なになに、何の話ー?」
セ「そこの副官殿が、怪我を隠して一日中動き回ってたって話だ。治せる人間がすぐ傍にいるのにな」
リ「あ、ユウラ、ちょっと本気で怒ってるんじゃない? 謝っておいた方がいいわよー?」
ユ「だから、そんなに大げさなものじゃないのよ。ただの黒獣相手に不覚を取られるようじゃ、あたしもまだまだだわ」
リ「素直になんなさいよユウラー。セトが忙しそうだから気を遣ったんでしょ? 逆に気を遣わせちゃったみたいだけどー」
ユ「…………」
リ「そういうことだからセト、あんまり怒んないであげてねー? じゃ、私はもうお役御免でしょ? 先に帰ることにしますか」
セ「リイザ、待て」
リ「はーい?」
セ「悪いけど治すまで付き合ってくれ。位置が位置だし」
リ「あー、なるほどなるほど、そういうことでしたかー。なんで自分で呼びに行かないのかって思ってたけど」
セ「シスターに頼んでもよかったんだが、こんな時間だしな」
リ「あのねセト、そういうときは簡単な方法があるのよ? 優しく抱き寄せて、耳元で囁くように名前呼んでから脱がしちゃえば――」
ユ「ばっ……リイザ!」
セ「やっぱり人選ミスだな、明らかに。なんで夜番の女性隊員お前だけだったんだか」
リ「セトは紳士だけど紳士すぎるのよねー。一夜の過ちくらいあってもいいんじゃないの? 若いうちはなんだって許され――」
セ「お前の場合は一夜どころじゃないよな。それで何回減給食らってるのかもうオレも覚えてない。いい加減懲りろよ?」
リ「今は私の話じゃなくてセトの話をしてたんですー話を逸らさないのー」
セ「先に逸らしたのはどっちだよ。……まあ、ユウラ。そういうわけだ。オレに言いにくいなら教会に行くとか、とにかく怪我は放置するな。大事になったらお前だって困るだろ?」
ユ「……そうね。ごめん。気を遣わせたわ。あんた忙しいのに」
リ「じゃあユウラ、脱ぎましょうか」
セ「いや、怪我の程度が分かればいいから、襟元くつろげて背中こっち向けてくれればそれで十分――」
リ「ちょっと、出し惜しみしないのユウラー」
ユ「ちょ、リイザ、自分でできるわよ!」
リ「何恥ずかしがっちゃってんのよー。一人で脱ぐのが恥ずかしいなら私も一緒に脱いであげるわよー? ほらほら、これくらい大胆に――」
セ「分かった。リイザ、もう帰っていい。っていうか帰れ。ユウラもそれでいいか?」
ユ「そうしてもらえると大いに助かるわ」
リ「えー、私の美肌が見たくないって男子はいないはずで――きゃっ、ちょっとセト、館内での呪の使用は禁止――ちょっとちょっと、自分で呼んでおきながら強制退場させるなんてひど――」
セ「……なんか余計疲れたな」
ユ「そうね……ほんと、悪かったわ」
【テイト】
セ「珍しいな、お前が怪我なんてさ」
テ「うん。ちょっと呪の練習中にしくじっちゃってね。お願いできる?」
セ「ああ」
テ「ありがとう。……あー、すごいよ、セトはやっぱり」
セ「いきなりどうしたんだ?」
テ「もともと呪の能力は高いけど、癒しの呪を使うときはさらにいいよね。呪力の操作が繊細で丁寧で正確なんだ。ほんと……溜息が出るくらい狂いがない」
セ「ま、まあ……他人の怪我を治す以上は失敗できないし」
テ「治す相手の呪力抵抗も読み取った上で、計算しつつ呪力操作してるよね? それなのに速い。惚れ惚れする才能だよセト」
セ「本当にどうしたんだテイト? 他にどこか……頭でも打ったか?」
テ「どうして?」
セ「いや、そんなに人のことべた褒めするなんて……しかも呪のことでさ。お前らしくなくて、驚いたっていうか」
テ「そういえば実際セトに怪我を治してもらったことは初めてかもしれない。だからかな。ねえセト、今日で僕は確信したよ」
セ「あ、ああ……よく分からないけど、とにかく落ち着けテイト。お前の呪力が乱れてこっちも調節が難し――」
テ「セトの呪の才能はもっと伸びる。だからさ、呪に専念してみない? 他の属性に手を出してもいいし、先に紋章呪や上級呪から始めてもいい。僕に教えさせてもらえる? どれくらい伸びるのか……今からわくわくしちゃうな」
セ「オレも伸ばせるなら伸ばしたいけど、とにかくテイト落ち着――」
テ「それじゃ早速今日から始めようか! やっぱりまずは風呪を極めていくのがいいかな? さっきも言ったけど、合成呪のことを考えると、先に別の属性の呪に手を伸ばすのもありだと思うんだ。セトの呪力からして、多分水属性とか向いていると思ってる。中級までならすぐに扱えるようになるだろうし、そうなるとできることも増えてますます楽しくなるよ。ああでも、できるなら光呪を扱えると一番なんだけどね。そもそも中央が強力な光呪をほぼ占領しているって言う状況は好ましくない。今度呪部門の教官を集めて中央に抗議してみたいと思っているんだ。もし光呪が自由に使えるようになれば、僕も興味があって――でも本当は東大陸の闇呪なんかも――結局一番いいのは自分にあった呪を極めていくことで――だから――」
セ「……放っておいたら一日中でも喋り続けそうだな」
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