第49話 あたっくま~ず

「もう自棄になってますね」

 コテージの中まで筒抜けるマイムマイムに辟易している小太郎。

「あっ…四宝堂」

 反対側の女子コテージからチョチョコッと出てきた冬華。

 夏男の歌声がピタッ止まる。

「冬ちゃん…」

 そっと手を差し出す夏男の脇をスルッとすり抜け、CDラジカセの前でピタッと止まる。

 そして大音響で流れるCDラジカセをガンッと思いっきり蹴る。

 キャンプファイヤーの中にボスンッと落ちた。

 大音響で阿保みたいに繰り返されたマイムマイム

「マイム‼マイム‼マイ……」

 マイム終了である。

 そのままスタスタとコテージに戻る冬華。


 外が静かになって、しばらくしたころ。

 ギーッ…

 コテージの扉が開いて、無言の夏男がベッドに横になった。

 小太郎達に背を向けていたが、薄い布団がヒクヒクと揺れていた。

(泣いているのか…)


「夏男…おい夏男」

「放っておいてくれ…この世界に俺の居場所が見つからねぇ…」

「そうか…では、私たちはアッチのコテージでクレープをご馳走になってくるのでな」

 ガバッと起きだして、僕達より早く、反対側のコテージのドアをノックした二階堂先輩…メンタルのアップダウンが激しいなと思いました、小太郎…。


「なんかクレープがあるって聞いたんですけど~、開けてくださ~い」

 ドアを叩く夏男。

 ドアは固く閉ざされている。

「冬ちゃ~ん、春奈~、先生、僕ですよ、怪しい者じゃないですよ、夏男でしたよ~」

「小太郎、夏男は解ってないようだな」

「はい、二階堂先輩だからドアが開かないのだという現実を、いつになったら受け入れるんでしょうね?」

「高校4年生にもなって…恥ずかしいことだな」

「それは…秋季先輩もですけどね、高校4年生の時点で恥ずかしいと思ってください、そして来年、僕と同級生にならないでください」

「うむ、しかと心に留め置くぞ」

「こうなると…僕たちも行き難いものがありますね」


「よぉ~し…窓を割ってでも侵入しちゃうぞ~」

 夏男が一線を越えようとしている。

「また不法侵入を?」

「夏男にとっては日常茶飯事だからな、もはやハードルが無いに等しいのだろう」

「何が世界に居場所がないだ‼ 誰よりも順応してるじゃないですか‼」

「うむ…進化とは常に順応力が高い個体から始まるものだ、あるいはヤツは新人類に最も近いのかもしれんな」

「だとしたら、僕はそんな進化否定します」

「進化が正しいとは限らんからな…ほらサーベルタイガーも牙が重すぎてみたいな例もある」


 ガラッとコテージの窓が開いた。

「夏男さんだけ特別ですわ」

 春奈がポイッと放り投げたもの…

「俺だけ…」

 夏男が拾い上げたもの…

「ぶどう…」


「奴だけグレープだったようだな」


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