番外編

第39話 死霊の都「ジェレミーの憂鬱」

 

 

 ゴーン、ゴーン、ゴーン……。


 終課(午後九時)の鐘が都に鳴り響く。



 王に呼び出されたのは、噂好きの伯爵夫人だ。


 物憂げに王の間の玉座に座っているのは、金髪緑眼のジェレミー。


 王冠を頭上に載せ、白貂の縁飾りのある紅いマントを羽織り、片手に王錫、もう片方は肘掛に肘をついて手のひらに顎を載せ、天鵞絨ビロードのトラウザーズを穿いた長い足は組んでいる。



「伯爵夫人。そなたはリリアーヌと親しくしていたと聞く」

「はい、陛下。畏れ多くも王妃さまは、私に胸の内を何でも明かしてくださいました」

「では、聞くが。余の王妃はいったいどこに行ったのだろう?

 リリアーヌが王都を出奔してからというもの、四方へ手を尽くして探させているが、いまだ何の手掛かりも得られない」

「王妃さまは、公妾さまのことでお悩みでしたので」

「それは、余も知っておる……。

 リリアーヌが心配なのだ。王妃の実家は断絶しているゆえ、行くところなどないはずなのに」

「陛下、王妃さまが何を考え、どのようなお気持ちだったのか、分かっておられますか」

「いや……」

「まずは王妃さまのお気持ちを、陛下がご理解される事が大事だと思います」



 ジェレミーは伯爵夫人に勧められて、リリアーヌがよく訪れていたという孤児院に行ってみることにした。

 側近の武官と文官を連れて、王宮から馬車に乗る。



 王の突然の訪問に、驚いた様子の孤児院の院長と修道女が出迎えた。


「……聖女リリアーヌさまは、こちらの遊戯室で子供たちによく絵本を読んでくださいました。また、あちらの浴室では子供たちの入浴介助もしてくださいました」


 修道女が中を案内しながら説明する。

 ジェレミーは頷きながら、耳を傾ける。



 満月に照らされた中庭に出ると、木の枝に吊るされたブランコが風に揺れ、球技用のボールが隅に転がっていた。


 ジェレミーはブランコに座り、在りし日のリリアーヌの姿を思い浮かべる。

 それからしばらくの間、物思いにふけった。




 ゴーン、ゴーン、ゴーン……。


 讃課(午前三時)の鐘が都に鳴り響く。



「陛下、そろそろ王宮にお帰りにならないと」

「この後、舞踏会が予定されています」

「中原に名高い魔術師も招いておりますので色々と、最近の周辺国の情勢やリリアーヌさまのお噂なども聞けるかもしれません」


 側近たちが、ジェレミーに帰途をうながす。


「――そうか、では戻ろう」



 ブランコから立ち上がると、ジェレミーたちは子供たちのいない孤児院を後にした。



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偽りの聖女~裏切られた王妃は真実に目覚めました。~ 雪月華 @sojoyu

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