第20話 嘆きの葬送
エレオニーは公爵位が与えられ、軍事的には重要性のない位置にある城を一つ与えられた。
けれどエレオニーは、与えられた城へ行くことを良しとせず、子が生まれるまで離宮で過ごすことを願い出る。
離宮はこれまで王族が療養地として使用し、今は上王が隠居生活を送っていた。
ジェレミーは子が生まれるまでと期間を区切って、これを許可した。
その間、王太后も離宮に滞在することになり、無事出産が終わるまで上王たちにエレオニーを託す形になった。
宮廷貴族たちは、エレオニーが王の寵愛を失い、事実上宮廷から追放されたのだと噂する。
エレオニーが宮廷から去ると、彼女を中心としていた派閥は自然消滅した。
王妃は再び王の愛を取り戻した。
エレオニーから生まれる子は、王妃の子として育てられると決められている。
宮廷人から見れば、リリアーヌはすべての憂いが消えたように見えた。
ただしリリアーヌは、宮廷を去る時に挨拶に来た、エレオニーの憎悪に満ちた暗い瞳が忘れられなかった。
(私とジェレミーのせいで、彼女の人生を振り回してしまった。本当に罪なことだわ……。何だか、胸騒ぎがする。何もなければいいのだけれど)
予感が的中したかのように、上王の訃報が届いた。
エレオニーが離宮に行ってから、間もなくのことだった。
「信じられない! あんなにお元気だった、父上が」
「ジェレミー……」
悲しみのうちに、国王によって上王の葬儀が執り行われた。
リリアーヌにとっても上王の死は、ぽっかりと胸に穴が開いたような喪失感を伴った。
生前は、亡くした父の代わりに保護者となってくれ、リリアーヌにはいつも優しく接してくれていた。
エレオニーが公妾となった時も、ジェレミーを諫めてくれた、頼りになる義父だった。
そして突然の上王の死に、王太后はひどくショックを受け、寝込んでしまう。
心因からくる体調不良と思われたが、なかなか回復できずにいた。
葬儀後も王宮に留まり、離宮に戻ることを拒否した。
「二度とあの離宮には行かないわ。あの卑しい女のせいよ、あの女のせいで、上王陛下は……!」
国王夫妻が見舞いに行くと、天蓋ベッドの上の王太后は、以前より痩せて一回り小さくなっていた。
「ジェレミー、あの女は王家に毒を注ぎ込む、毒婦だわっ」
「母上、エレオニーは、仮にも次期王位後継者の生母となる者ですから、口を慎んでください」
「アレはだめよっ、あなたの姉たちの子から、後継者を選びなさい!」
王太后はジェレミーの腕を掴み、上体を起こして涙ながらに訴える。
「どうか落ち着いて。興奮すると、母上のお身体に障りますから……」
「リリアーヌ、あなたがちゃんと王子を産まないから、こんなことに」
「母上! いくら母上でも言っていいことと悪いことがあります」
「申し訳ありません、王太后陛下」
声を上げて泣き伏す王太后に、リリアーヌは頭を下げて謝る。
――それからしばらくして王太后も、上王の後を追うように儚くなった。
上王と王太后は、王宮の礼拝堂地下にある王家の聖廟に、石棺に納められ並んで安置された。
立て続けに父母を亡くして沈み込むジェレミーに、リリアーヌは何と慰めの言葉をかけていいのか、分からなかった。
上王たちが居なくなったことで、ジェレミーに国王としての重圧がさらにかかり、酒量が増えていく。
リリアーヌは、心配しながらも見守ることしかできない。
リリアーヌは、ニコラが不在なことも余計に心細く、寂しく感じていた。
ニコラからは時折、旅の途中で移動しながら書いた手紙が届けられた。
最新の手紙には、祖国ラグランジュ家の領地だった場所に来ており、古い礼拝堂にあった書物を調べている、と書かれていた。
また、一族に仕えていた者の生き残りが見つかった、ともあった。
そうして月日は流れ、遂にエレオニーは玉のような男の子を無事に出産した。
喪に沈んでいた王国の人々は、この慶事を喜びをもって迎えた。
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