第6話 すれ違う想い

 


 

 王はここしばらく政務が忙しいことを理由に、リリアーヌと二人きりになることを避けているかのようだった。


 けれど今日はニコラの伝言を聞いて、夜更けに公務服のままリリアーヌの部屋にやって来た。


 王妃の部屋は居間と寝室、それに夫婦共有の寝室を挟んで王の部屋へ続いている。夫婦の寝室へは互いの部屋のドアから直接、行き来できるようになっていた。

 最近は、それぞれの部屋の寝室で別々に眠る日が続いていたが……。


「遅くまでお疲れさま。来てくださって、ありがとう」

「ああ。――それで、話ってなに?」


 リリアーヌはゆったりとした部屋着でジェレミーを迎えた。

 温かいハーブティを入れて、夫に勧める。


「ジェレミー。最近親しくされているお友達は、いつ私に紹介して下さるの?」


 何でもない風を装い、笑顔で切り出したリリアーヌに、ジェレミーはハッとして顔色を変えた。


「――彼女はっ。君が心配するような、関係じゃない。エレオニーは純粋で貞節な、とても信仰深い女性なんだ」


 ジェレミーは警戒するように身を固くし、顔を背けた。


「ええ、でも……噂になっているから。このままだと、子爵未亡人の評判にもかかわるでしょう?」

「エレオニーは、国のために尽くして亡くなった臣下の夫人だぞ! それを、君はくだらぬ噂を信じて、僕が王の立場を利用し彼女をモノにしたとでも邪推しているのか。いったい僕を、何だと思っている?」

「ごめんなさい、そういうつもりではなくて。ただ、まだ随分とお若い方だと聞いたので、再婚先を紹介してあげるとか、何かして差し上げられることもあるでしょう?」


 リリアーヌの提案に、ジェレミーはあからさまに嫌な顔をして彼女を睨んだ。

 そんな夫に、リリアーヌは少なからずショックを受ける。


「彼女は――エレオニーは、君とは違う。ごく普通の、心根の優しい繊細な人だ。喪が明けても夫を想い、喪服を着続けているような。

 そんな彼女に、再婚話だと? 僕から持ちかけられたら、いやでも断れないだろうに。これだから、君は――。

 あの人を傷つけるような真似をしたら、許さない」

「落ち着いて、ジェレミー。ちゃんと話し合いましょう。私は」

「話しても無駄だ! 人から崇められ、ちやほやされている聖女の君には、僕と彼女の友情など、到底理解できないだろう」


 憤慨して肘掛椅子から立ち上ったジェレミーを引き止めようと、リリアーヌは夫の腕を取る。

 すると、ジェレミーは妻の手を乱暴に振り払い、一瞥もせずに部屋を出て行った。


「ジェレミー……」


 呆然とするリリアーヌの瞳から、涙が零れた。


「――私だって祖国と両親を失い、この国とあなたのために尽くして来たのに。夫であるあなたしか、この宮廷で頼れる人は居ないのに」

 

 


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