6-なんだろね

「しばらく部屋で過ごすんだって。」

「ぐぅ?」


「飽きそう。」

「フグっ」鼻にかかる声で顔を近づけてきた狼のドアップだ。


“まあそんな腐んなって、オレを撫でる?”と言ったところかな。


お言葉(?)に甘えて、撫でる。頬擦り、くんくん。


狼は身動ぎして、セリから抜け出しブルブルとした。雫を払うかのような仕草にどうしたのか聞こうとすると…


「何か持ってこさせるか?」


ロードが近づいていた。


「本はあるし、摘まめる食べ物もある。モフモフもあるし〜。」


動かないよう言われているのを守るなら、他に欲しい物はない。


キースもグスタフもお仕事らしく急がしい様子。

シュルトも荷の管理をする本来の商人の仕事に行った。


(だいたい部屋に居てくれるから、忘れがち。)


ご飯を用意してくれるたおやかなお兄さん、だけでは無いシュルト。ここのところずっと食事はここでとっていたキースとグスタフ。

「夕食は一緒だもんねえー。」


狼が食べる場所は特に少なかった。その点この部屋では自由だ。護衛の仕事もできている!護衛対象を守っているのか、子守りになっている事実は無視したい。


『部屋で安静』では、できることは限られていた。


セリは毛皮の上でごろごろしている。生きているし動くので嫌がる素振りがあったら止めるつもりだ。


ロードもなんだか用事があるようで、部屋に居るが作業をしている。

邪魔はしたくない。


狼に語りかけるという見た感じ変な事をしている。人に戻れば、カナンと話しているようなものなので問題はないと思う。


カナン自身に記憶はあるらしいが、“行動が狼に引っ張られる”と話していたらしい。


付き合いの長いシュルトから、『犬扱いで大丈夫』と言われているセリだ。


「ヴォン!」

その時、いつも通り抗議する狼の声があった。


2人一緒だが、子守の狼なのか。面倒を見ているのがセリなのか。

どちらが面倒を見ているかは分からない。


時折、その様子を見ているロードは、“あれは毛皮”と自身に言い聞かせていた。


“距離が近い。寄りかかるな。舐めでもしたら凍らせる”


そんな冷たい視線を狼に送っている。俺が今、セリの護衛の人員資料を見ていた。北の砦での態度や不審な兵士、騎士を情報共有する。


狼にはやれない、その書類仕事が回って来た。


(セリの安全にためだ。)

片時も離れたくはないが、さっさと済ませるに限る。


体調を崩したセリが心配だったが、顔色も戻り動き回りたい様子だ。

約束した通り安静に過ごしている。


(とても暇そうで、毛皮で遊んでる姿も可愛いが。)


毛皮も尻尾が揺れてるので、喜んでいるのが丸分かりだ。その尻尾を凍らせてやりたいくらいには、イラつくのは当然の事だと思うロードだった。



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