22-秘密交易

新種の魔物騒ぎになった炎の鳥。

キース様の魔法という理由で、落ち着いた拠点を見回す。



被せるように作られた北の砦は、数年前にできたものだと聞いたことがある。なかなか建築が進まなかったらしいが、作りは石を積んだような単純なもの。

長い間の刑罰を受けている人間の仕事だった、とセリは思い返す。


(そんな砦に、あんだけ大きな炎を当てたら…)


雪で埋もれる。

(簡単に砦を落とせそうだな)

セリは物騒な想像になったが、炎の鳥は綺麗だったのは本心だ。



シュルトの手伝いをしていて、昼も過ぎた頃に団体がやって来た。タローとクエンが居た。


「キッツイ行軍だった。」

「ケツ痛えぇ。」



荷車に乗っていた様子だが、体は痛むらしい。やってきた人達に飲み物とスープを配り、少し休んでもらった。


人数に十分な食事もテントもあったのに、安心感を感じるのはどれだけ備品不足だったかを思い出す。


食べ物から、寒さを防ぐものまでペラペラだったなあ。


技術力や、装備品の余裕の違いをつくづく感じた。それは、タローとクエンも一緒だったらしい。


「なん、じゃありゃ?!」

「凄いな」


雪原にあるはずの無い建物に驚き、テント郡に感心して支給された装備の温かさを実感した。


「兵力差って残酷。」

「戦おうって気持ちがもう、な。」


勝てないでしょって気持ちがはっきりする。元々争いに来たというより貴族の威信を守るためや、箔付けに追いやられる場所だ。


魔物にも生活にも大変な土地に連れてこられる方は、たまったもんじゃない。


それに巻き込まれたセリも不運だった。拒否ができないという点でも。


そんなヤサグレタ気分になったセリをロードが慰めるように撫でる。

もっと撫でてくれと近寄るセリの様子に、仲が良いこってという視線を送った。


そして、そろそろ謎の建物の中へ踏み入る勇気を奮い立てる2人。


セリは寝ていたので、すんなり入った。物が積み上がっているが、かわり映えのない部屋。


キースのいる中央へ、形的にカナンが先触れのように入った。許可の声が上がったのではいると地図。そして書類をめくるキースが居た。


「来たね?」


北の砦に詳しい2人とおまけのセリ。ロードとカナンがいるのは当然のようだった。


山に入る洞穴、『ドワーフの坑道』と名付けられた内部の事は未調査と聞いている。北の砦の話と…


「流通にどこを使っていたか知りたいんだけど?」

この辺一帯と、西に進めば人族に会う可能性が高くなる。


『極北の城』と範囲が被らなかったが、この砦で食糧などが賄えていたと思えない。


ならば、調達していた相手がいる筈。


「確かに、川添いでの交易はしていましたがこの時期には道が閉じてしまいます。」


食糧不足は、冬を越す備えも技術もなかったからだ。北の砦の運営はギリギリのところを進み、崩壊するとなれば放棄された。


自ずと内部の崩壊に、来るべき時だったと思った者も多かっただろう。それを認めなかったのは、盲信的に大丈夫だと思っていたか?誰かが悪いとしか考えない人達だった。


「たぶん、俺たちの救出チームが向かってる。」

4人、体調を崩していた夫人がいる状況で、分かれ隊。


「おそらくこのルートで来るかと。」


まだ雪が多く残る中、来るのも命懸けだ。

本当に来るか?見込めないと思うセリは静かに黙っている。


それほど、北の砦の人間に信頼がないのか。それも仕方ない関係性だった。


そんな中、初耳だった情報が出た。

なんでも、流れの商人と交流があったらしい。


「人間?」

「いえ、分からないです。」


目深にかぶった傘は、祖国を思わせるがその雰囲気は胡散臭く品揃えは獣人の国にも仕入れ先があるような。


そんな秘密の交易で、薬やらを手に入れたと聞いてあの品揃えが良かったと合点がいく。しかし、こんなところまで商売するって、どんな理由だろうとすごく気になるセリだった。

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