8-それぞれの夜明け
「読めた?」
「分析結果も出る。」
頷き、クセのある字で書かれた書類がキースに手渡された。
どっぷり闇に包まれる森。テントは川の側にあってもグスタフのテント内は明るかった。魔道具が当然のように使われ、魔物避けにもなる。
魔物を引き寄せる場合もあるが、もれなく素材にされるだけだ。
テントは1人、2人と休むために離れたが、グスタフとキースはそのまま書類に目を通し終わった。
分析の結果、芳しくない結果にキースは対策を立て始める。グスタフはその様子を見て、温くなったお茶を飲んだ。シュルトが用意してくれただろう摘める食事を無意識に食べたらしい跡。腹はそれほど減っていない。
真夜中はとうに過ぎ、読んだ書類の量からして…日が昇る時間が近そうだ。少し寝ることにした。キースはまだ寝ないだろういや、寝れそうにない。
他の複数立つテントは静かだった。酒を飲んでいた3人も既に解散している。その近くのテントで、体力の限界から早い段階で寝てしまった男が1人、もぞりと起き出した。
起きたら知らないテントの中、以前にいた馬小屋より温かいので、体調を崩した夫人に(悪いことをしたな)と言う気分になる。
薪もない小屋では、これほど暖かくするのは困難だが。
「魔道具ってすごい。」
ずっと灯りがついていたらしいテントを見た。貴族様と研究職の人がずっと起きていたのか。
久しぶりにぐっすりと寝ることができた寝床から、起き出した。
早朝。いやまだ暗い中も料理をしていた頃には、慣れた頃合いだ。と言っても最近は料理らしい事はしていない。
できる状況下になかった。
食糧その分配の心を砕きせめて食べやすくと包丁を握った。飽きないようにと工夫はしてみたが、調味料も塩だけであればそれほどやれる事もなかった。
そのうち、外に出ての狩り。狩りはした事があるが、それほど腕はない。料理の体力とは違い、兵士の体力には劣る。生き残れたのは、“最終的には幸運なのかもしれない”と言われる自分の運の悪さか。
“生き残っているなら運が良いんだよ”
と慰めてくれた少女の導きだった。
「はあ元気ねえ。終わったらエネルギー切れになるのにネ。」
シュルトは、グスタフのテントの様子を見ながら、起きてきていたコックの男に飲み物を渡した。
一番歩き通しになったメンバーの中で、体力が限界に見えたが目覚めは悪くないようだ。
「その、僕たちが行く城ってのはどんなとこなんですかぁ?」
少々間延びした声が特徴で、香辛料に嬉々としていた男。シュルトは興味を持ちそうな話をした。
「商人も来ているし、保存も十分。兵士の訓練場も兼ねているから兵士が料理を作っている食堂もあるケド。」
そう切られた言葉に期待した目が向けられる。
「貴人への食事を作る料理人もいるし、住民にも料理にお金を出す裕福さがあるワ」
料理がしたい。食材に触れたい。誰かに腕をふるった料理を…食べさせたい。そんな欲を満たせるなら、新天地も怖くないと思った。
人が起き出した気配に、もぞもぞと動き出したセリに静かに囁いた。
「まだ寝てて良いぞ」
舟が漕げそうな様子に、優しく抱き寄せる。
「帰りたいか?」
人族の国。そこに郷愁を感じるなら、行くのもやぶさかではない。
「教会には生きてるって伝えに行きたい。他の国に興味、ある。」
怪しい言葉遣いでセリからの返答があった。
「獣人の国に、ロードの故郷と。海って場所が違うと色が違う?」
さらりと髪を撫で、眠りにつくまで愛おしむ。
「美味しいもの食べて」
全部叶えようと、思いながら返事はせずロードは撫でていた。
「帰る場所があるといいな」
よく喋ったが、半分寝ているセリの本心であると思う。
「俺が叶える。一緒に行こう」
そう囁くと、楽しそうに笑い眠ったようだった。まだ寝ていても良い。
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