31-決定

「じゃ、北の砦?に、出かけるからね?」


突然、キースが言い出した。


「雪、大丈夫かな。」

外を見ると雪が降っているが、風はないようだ。確かにそろそろ、雪の勢いが弱まる時期だが。セリのいた場所がそうなだけで、ここら辺の事情は詳しくない。


「大丈夫だって。グスタフに確認済み。」


専門家にきいたなら、疑問は解消だ。

長年の記録は、魔木に関するものだけではなく、雪や風の事もあり予測にまで構築されている。すごい量の情報だった。


ここで情報部が出てこないのが、キースらしいとカナンは元の部署を思い起こす。


今回、何か口出ししてきそうだなと予想している。自身が一抜けした形に、何か追撃がない方が変だ。威信をかけて!とか誰か言い出しそうだな。と冷めた考えをする。


セリは希望通り、北の砦に行きたいのだろう。以前あった模擬戦での勝利、その報奨にするくらいだ。


セリの望みを叶えると言いながら、手放す気はない竜人ロードが口を開いた。

「セリ、その北の砦に残りたいって事はあるか?」


偉いぞ、ロード。2人がそう思った。

(そこは確認しておかないとな。)

(ちゃんとセリの考えを聞くのは良い傾向ネ)


「ないよ。」


あっさりとセリに答えられ、緊張したカナンとシュルトが肩透かし食らった。


「え、古巣にかえりたくないの?」

つい、カナンが割って入る。

この城より、長くいた場所に少しくらい懐かしさがあると思ったが。


「しっかり探索したから、もう興味ない。」


思った以上に、ドライだった。シュルトが具体的に聞き出す。


「そう?会いたい人とかいないの?」

「んー。無事は知らせたいけど。それだけ。」


元々、『逃げ出せ』と言われていた環境だ。

“孤児院に行きたい”その場所が知れれば『はい、さよなら』で済むらしい。


感動の再会とまでは期待していないが、ちょっと驚きが勝る。


「そうか。孤児院の場所がわかっても、すぐ帰れないと思うが。」

セリが手に届く場所にいてくれる嬉しさに、撫でながら追加された。


セリにとっては悪い情報か。


北の砦の探索でも、かなり北の位置まで進む。少人数で行くには、深入りすれば危険だ。


「そこはしょうがない。遭難はイヤ。」


セリもそこは理解しているらしい。

「条件が整ったら、一緒に行こう」

「うん。」

場所を知らないのとじゃ、気持ちの面で違うのだろう。

ロードを教会の神父様やシスター達に紹介するとなると…


なんと説明すれば良いのだろう?思いつかず、シュルトに相談する事にする。


帰りやすくなるのは、雪解けした時。まだ先だけど今の状況なら待てる。

お金も稼げるし、住む部屋と食事がある。


「この暮らしが、気に入ってるか?」

「楽しい。」

頷いたセリに、ロードが抱き締める。


慣れてきたのか、魔力で息が詰まるのを防いでいる。護衛として、世話役もちょっと安心な光景だ。


セリもロードの扱いに慣れつつあった。



「泊まりも必要なもの、監視…」


「狩りをしつつ、調査を進める。」

「拠点から、探索へそこで2グループ。捜査と、待機。」


キースとグスタフは話を進めていた。

置いてかれたくはない。

ロードが行くならセリも一緒が口に出して決められた。


逃れられないのに、な。


「キースが付くのか?」

「戦力的に、問題ないし交渉もできるよ?」


グスタフの単純な疑問に含みのある答え。

支配者階級、コワイ。


「拠点に誰かいれば、城へ迷わないでしょ?」

「わかった。魚でも釣っていてもらおう。」


(兵士の任務魚釣りってアリなのかな?)

サクサクと目の前で、行程と人員配置がなされた。


その目まぐるしさを把握できないまま、


「顔合わせは後日するからね?」と伝えられたのだった。

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