28-決定事項
3人が護衛にと立っている主張をバッサリ切り、応接室に入れられている。
その様子を横目に、キースが執務している部屋にセリは陣取った。
ロードが椅子であり、梯子である。
「アレと、その魔法陣のっ!」
セリの言葉に抵抗もなく、本が抜かれていく。
「ハイハイ、こっちに本を置くよー。」
カナンまで付いていた。
着々と読書の空間が作られていく。
追加もきた。
「これが図鑑、こっちがそれに関する魔法陣だ。」
「それはここで読んでも良い?」
「解説も付けよう。」
専門家の話を本を見ながら聴ける。贅沢だ。
「ハイハイ、紅茶が来たわヨー」
シュルトが淹れたものではなく、専任のメイドが運んで来ていた。
「いたれりつくせり」
セリが言うと変なニュアンスになったが、まあ言いたいことはわかる。
部屋も対応ひとつとちぇも、ひと味違うのだ。
貴賓室。
高貴な場所に度々足を踏み入れ慣れているメンバーと、一番慣れていないセリだが。ここでの中心は確実に、セリだった。
この部屋の主は、まだ応接室。
なんの話か?は気にならない。北の砦に行く、そのメンバーに勧誘。
いや、強制通告だ。上からの命令に従う騎士や兵士に拒否は難しい。
目をつけられた。それだけ。
決定の申し渡しに興味などない。
セリは欲望のまま、本に目移りした。
ここは、借りる本とは別に。グスタフが解説してくれる本を優先させる。
集中している。
椅子に座るという発想がなく、もうすでにロードに腰掛けていた。
グスタフはその状態を流したが。
カナンとシュルトは、微妙な顔をした。
(番持ちって、ほんと離さねーのな?)
(年齢的にセーフ?…アウト寄りよネ。)
引き離せるとは思わないものの。場合によっては策を講じなければ。セリが困る。
まあ、今はいいか。
そんな保護者思考の2人にも、魔術書で気になるものがあった。
「これって、テントの魔導具に使ってるやつ?」
「えーと、古いんじゃないカシラ。今なら…」
部隊で使ったテントの魔導具、その魔法陣の仕組み。壊れた時の対応にとおもむろに手に取った本をカナンが持ち、シュルトが覗き込む。
対応するテントの取り扱いがあったのか、商人としての知見も広げていた。
各々、分かれて過ごしている。
応接室での面接という名の決定事項申し渡しが終わった頃
部屋で静かに集中しているのを横目に
疲労した3人の護衛が、部屋の外の任務に戻って行った。
精神衛生上、この部屋に居たくない気分になったらしい。
ススっとセリとグスタフの方へ寄ったキースは、静かに2人の会話を聞く側にまわった。
「魔法陣、魔術陣と昔は言っていたものは、決まったインクで記す。これは地方で違い、その差異によって成功も左右される。この地域はコレだ。」
図鑑をじっと見て、セリは見覚えのない植物を指す
「植物、こっちは見たことない。」
似ている色でも、形が少し違う。
グスタフが大判の資料を取り出し、ページをめくる。
「寒い中でも、南が生育域だ。」
「簡易のものなら直ぐ魔法陣できる?」
「魔法陣は、魔法より難しい。再現性がない」
「再現?」
「一回火を出しても、同じ火にならない。出ないってところだ。」
ロードが具体例を言う。
キースは黙って聞くまま。
「何回かやるつもりで、使うもの?」
(セリは、火をつける魔術陣の実用性を知りたいみたい?火が小さいし、安定しない火は使い所がなさそうだけど。)
グスタフとロードが答えた。
「火をつけるくらいなら、それで良いな。」
「使わなくっても良いんじゃないか?」
非効率で不要と言われたようなものだが、セリは使い勝手のイメージができていた。
「適正がないと、火起こしも大変。」
「ああ。それなら小さい火でも良い?」
キースがぽつりと言う。
「普段、どうしているの?」
「貰い火する」
「魔法は?」
「温存。」
「簡易で安価な魔術は売れる?」
商売の話に耳ざとく、商人が釣れた。
「おはなし、聞きたいワ?」
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