16-寛ぎ空間

ロードの部屋というと『セリの部屋でもある』と言われる部屋は、迎賓用の広く角の部屋。窓も大きく極北の城の城壁が見える。


そこに戻って来た面々は、寛ぐ姿勢になった。

セリが眠そうだ。


お腹もいっぱい、よく喋った上に気が緩んだ。この部屋にも慣れたのか、セリのために考えられた装飾もひと役買っているかもしれない。


その部屋の飾りつけを指揮した立役者が、シュルトだった。

雪で閉ざされているこの城の中において、これだけのものを揃えられた腕前は誇っていい。


子供用を考え、セリの気持ちにも寄り添えるように配慮した結果だ。


異国情緒さえある明るい色使いの部屋は、雪国ではお目にかかれない雰囲気だ。椅子と机を無くして、クッションを積み上げ彩どりの小物を使った。


絨毯の上にあぐらをかくスタイルは、馴染んだらしい。セリの慎重では椅子には足がつかないが、ロードが抱えているのでどちらにしろ着地しない。


「疲れた。」


飲み物も甘味も食べたので、お腹もいっぱい。

お茶も断り、まどろむ様子は年相応の子供だ。


ロードへと、もたれかかる姿も信頼の証か。


「よく喋ったもんなあ。」


お茶を飲んでいるカナンが労うが、ロードがその手を防いでいる。

その様子を視界にとらえながら、セリは尋ねた。


「子供っぽくない?」


意図は読めないが、素直に感想を言う。

「よくわからないが、女の子は喋りが達者な子も多いだろ?そんなものんじゃないかい?」


覗き込んだセリの瞳には、少し安堵が浮かぶ。


「誰かに言われたか?」

気遣わしげにロードが頭を撫でる。


「ん。“黙ってろ”って言われる事もよくあったから。」


うんざり感のある声色に、疲れも滲んだ。

「俺は聞きたい。」


そう言ったロードに擦り付き、

「休憩してからね。」

と言ったきり、身体を預け目を瞑った。



「あんま良い待遇じゃなかったっぽいな?」

「マア、当然そうでしょうネ。」


カナンとシュルトが簡易キッチンで言葉を交わす。

セリは少し眠るようで、ロードはそのままの姿勢で眺めている。


足の痺れか、疲れを心配知りところかよぎったが竜人がそんなことでへこたれるわけないか。


“どっちかというと、2人の時間を邪魔するな”にようで、少し離れた空気の読める2人だ。ここで、部屋自体を出るという選択肢はない。


“流石に寝ている未成年にちょっかいは出さない”


この線を超えたら、同室に居させるにさえ阻止する。権力を使って。

厳しい雪との生活は、子供に辛くあたる家庭も出る。


生き残りがかかっているなら、尚更で

庇護する大人がいなければ、余計にそうだろう。


「砦にいいた時、大人とも交流あったみたいだけど?」

「ソレ、組織の中でショ?生活が違えば摩擦も生まれるわヨ」


兵士のそれと、一般人の常識。カナンよりシュルトの方が一般の生活を知っているのであればそう言うものだろう。


「そうだ、明日オレ夕食まで来ないから!」

「夕食は食べるのね?」


「そっ。キース様のお供をするんじゃないかなー。」

「キースの訪いがあるなら、何か用意しようカシラ?」


「お!じゃあさ、チーズにハムで酒のツマミ〜!」

「お酒、種類があまりないわヨ?」


「持ち込む。」

「変わり種なら歓迎ヨ。」


シュルトもそこそこ呑む。


仕事から、呑みになだれ込むのも有りだろう。


「甘いのは嫌いかしら、カナン?」

「モノによるなーどこのやつ?」


元々、商売の縁があった2人だが、一緒に呑む機会などとんとなかった。

珍しい薬を所望する狼獣人と、目当ての薬の入手経路を持つ商人。


それだけの関係が、近づいたものだ。


酒の力か場の雰囲気か。


「ジュースもあるのよね、セリに出してあとはお酒で割ろうかな。」

「燻製はくせがあるが、チーズなら試すかな。」


保護者意識なのかもしれない。

意外と似たようにお節介焼きな2人は、セリにもちゃんと食べさせるつもりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る