第二十八話 賭け率

セリは久々に、昼まで部屋で過ごす。

このところ、模擬戦の装備の件で忙しく動いていた。

楽しかったが…


『休憩も必要』と言われて、朝出かけるのはやめた。

商人達の威勢良い声、仮設の建物が立ち並んでいる。


住民向けの商売に精が出ているようだ。


店を出さないが、シュルトも稼ぎどきで忙しそうだ。


お得意様とは言え、ロードのところばかりに居るだけじゃ

つまらないだろう。


「面白そうなものがあったら、持ってくるわ。」


そう言ってキリっとした顔で部屋を出て行った。

これから商人の戦場へ行くらしい。


お土産は楽しみだが、ちょっと声をかけにくい勢いだった。


そして静かになる。

外の雪は大粒だが風がないのか、静かに降っていた。


そろそろ荒れる天候が大きなるだろうと

広報誌に書いてある。


住民向けの情報を伝える紙だった。

セリも簡単な内容は読めるようになっている。


難しい比喩や見知らぬところは聞きながら目を通していた。


『誰が勝つか?

個人戦の行方』


(あ。)

賭けの対象になっているらしい。


ロードがセリの様子を観察している。

セリの反応いかんでは、この部屋に霜がおりるかもしれない


「大穴だね?」


セリの様子に心臓を落ち着けた。

賭けは、騎士側(オレもなんだけど?)が優先だ。


特に何の感慨もないのは、見慣れているのか?

「そろそろ飯行くか!」と平常のように声をかけたカナンだった。


今日の昼は騎士向けの食堂でとる。


模擬戦が決まってから初めてだが

特に気にした風のないロードとセリ。


カナンは少々違った。

対策も一応、通達してある。



目立つロードに、セリ。

カナンも加われば、揉みくちゃ必須。


そんな事を思いながら、ヒソヒソされているのを無視し

目的地へ歩いて行った。


(そして、まあ視線がなあ。)


カナンが席を立ったのを見越して、

近づいた若い兵士達。


その中に、なんとなく知っている雰囲気を持つ男がいた


「例年では、第八の兵士が出るのに!こんな人間の子供を…」

(喧嘩腰だが、若いとこんなものだろう。)


そう思っているセリが一番、若い。12歳だ。


「お前などに模擬戦の相手など務まらん!」


(指名されの出場なんだけど?)

トンチンカンな言いように、呆れのが強い。


「その子は上層部の意向を汲んで模擬戦に参加する。

お前がとやかくいう筋合いはないと思うが?」


「それとも、上層部に掛け合う?」

間に入ったのは、

知った2人。騎士のアレクセイと熊獣人のベンゼル。

若い兵士と比べ、佇まいが違った。


決定を覆すには、私的な感情で動いた事による

教育的指導を受けそうだ

そんな気概もない連中で早々に退散した。

(結局、対戦相手は喋ってないな。)



「おーう、ご苦労さん」

カナンには3人が来る事を通達されていたようだ。


セリと関わりのあった3人が居た。

1人見えなかった、ビクトール。


カナンが持っている食事は3人分で、新たな護衛に囲まれて食べるらしい。


「護衛を増やした。セリの顔見知りなら、まあ大丈夫だろ?」


仕方がないか

という顔で、話を終わりにして


セリに食べさせることに集中した、ロードだった。

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