第ニ十二話 第ニ夫人

女性はベッドの中に居て、身体を起こして座っている。

「こちらへどうぞ。」

身の回りを世話する人だろうか?

平坦な声でベッドに近づけて置いてある椅子を勧めた。


猫獣人の女性が「いらしてくれて、有難う。」

と歓迎の意を伝える。


黒髪に、猫のような三角の耳がある。


「はじめまして、セリです。こっちはロード。」


面会を希望した私が『クロウ』と呼んでいた獣人の子の、

母親と思われる人。


団長アクレイオスの第二夫人と初対面の挨拶を交わした。


そうと言うのも…

セリを1人、慰問に行かせるのにロードが反対した。

基本、子供が1人で行かせるのも良いものかと気を揉む。


女性の病室に、男性を連れて行くと言うのに遠慮を考えたが、

護衛の形でロードがセリに着いて行く事で、決着した。


(似てる)

セリが孤児院に連れて来た、獣人の子の面影を見た。


(クロウはお母さん似なのか。

獅子の団長を見ても、思い出さなかったけど。)



「貴女が。」

緑色の瞳が希望を欲するように見る。


竜人の番<つがい>の噂は知っている。


あまり良くないのは、人族の女の子がそうだったからか。

獣人の社会、貴族階級で昨今では番の話はのぼらない。


それはこちらの都合で、その子には関係ないし

私は話を嘘半分に聞いていた。


竜人の方は、扉の近くで立って控えているらしい。

暴走の傾向はなく、番を尊重しているようだ。


その相手も

芯の強い、女の子に見える。


「貴女の会った男の子の話をしてくれるのね?」

私は、私の喪くした希望の光のひと筋を得たい。


私の手からすり抜けてしまった、私の子の生きている証を!


議長からは、断定ができない上に、今の消息は不明だと聞く。

それでも!あの子の息づかいを聞きたいと思うのは、母親の願いだわ。


「ええ。

私の住む地域で、獣人の子の特徴を持つ子はいません。


その子には、黒い髪に隠れるように

耳がついていました。」


確かにここまで子供が来る事はない。

私も探して欲しいとは言えなかった。


生き残れると判断されなかったからだ。



「猫だと思っていたのですが。」


(獣人を見なれないなら、確かにしょうがない。)

「黒豹という種なのよ」


シュルトから聞いたけど。セリは正直、見分けはつけれない。

獣人同士は、感覚でわかる事らしい。


「狩りもできますし、とても頼りになりました。

しかし、話せる事は少なく。

あまり身の上は話してくれなかったんです。」


あの子はお喋りな子じゃなかった。

何回もお思い出し、思い返している。あの子の姿。

(今なら、もっと大きくなっているかしら?)


「孤児院での暮らしや、雪のある生活に不便を感じているようでしたから

裕福な家の子だとは思っていました。」


「貴族の子だとは思わないわよね。」女性は、相槌を打つ。


「ええ。服装も装備も、冒険者の少し良いものという風で。

元気になったら、やんちゃだし。」


「あの子が?」

鍛錬はしっかり努めていたけど、大人しい印象しかない。


「面倒見が良かったですよ。特に女の子に人気で。」

驚きに目を見開く。女性の深い緑色の瞳が大きくなった。

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