第29話 魔獣討伐

「32」セリが明瞭に言う


転がっている狼型魔物の数だった。

少々血の臭いが漂うものの、魔物は寄ってこない。


「数、数えられるんだな」

カナンがセリに驚くのも無理ない。

貴族じゃあるまいし、教育の機会を得られるのは稀だ。


騎士なら家庭教師をつけられるし、冒険者をやっていれば指で数えるくらいはできるが、褒められる事だ。


「孤児院で習った。」セリは簡潔に答えた。

砦でも驚かれ、教えてくれたシスターが褒められて嬉しかった。



「無駄な傷がないわね。毛皮は言い値で売れるけど…」

「肉はイマイチだ。」


“旨い肉を狩る”が今回のロードの目的だ。

セリが喜ぶから。


狼を回収し終え“魔木”をグスタフが調査している

異常な魔物の数が多かったが、魔化はそれほど進んではいない。


「念のため、監視の周期を増やそう。」


キースが決定し、話は終わりそうだ。


「そろそろ出発するカシラ?」


くいっと指を指すだけ、顔を向けずに言う。

「イチャついてる」


ロードはセリから労われてご満悦だ。


確かに、もうちょっと時間が必要そう。

携帯食として持っていた、木の実の入ったチョコをかじったシュルトに

それ、美味そうだな?と目線が来たので


セリ用のお菓子をロードに投げ渡した。


再びセリとキースが抱えられて移動する。


洞窟、魔物が巣食っていた場所を見て帰還だが、

異変が起こる可能性を考え、急行している。


木の根がうねった道のせいで、上下が激しい。


「ん"」

セリが揺られて少し目を回している。


やっと到着したのは、土の巣穴。

蟻の魔物のものだった場所は、洞窟が盛り上がったような土の山。


他の魔物がいない。


「中、あったかい?」中からの風に生暖かさを感じる。

「湯が来てるのかもな。」


「掘ったら出るか?」



珍し気に、土の壁を見ているセリ。触れるとポロポロと落ちてしまう

この山、崩れないのだろうか。


「魔力と、排泄物を土に混ぜて固めてある。

魔力が抜けると崩れるけど、まだまだ持つよ。」


(触らない方が良かっただろうか。)

キースの説明に、そっと手を離したセリだった。


水魔法で手を洗うセリに、ロードが乾いた布を渡した。

そのついでに、

「奥まで行くか?」

「痕跡がないなら、いいよ。別部隊に詳しく調査させるし。」


キースはこのメンバーで入る気はない。

セリが戦えることは分かったが、装備が狭さに対応しない。


土魔法が使える魔術士が必須だ。外に控えさせる必要もある。

この巣は、地下まで続いていて広い。


ダンジョンにはあるらしいと聞くが

ここまで狭いのだろうか?


風がざわめく。大きな木が周りに立っている。

幹も太く、元気そうだが、小さな魔物が住んでいる気配はない。


「アントの巣の近くに住む奴はいないよ。」


カナンの声。

飽きたセリは、木に登って実がなっていたので、魔法で採取した。

「大粒で栄養、良い。」

肥料は、何のおかげか考えないようにする。


それからの移動は、皆歩きで進んだ。

そこで見かけたのは、牛型の群れでの移動だった。


「1頭狩ってくか」


牛の魔物→肉がうまい

「煮込みスープ」とこぼした言葉に、

「グスタフの得意料理だよ?」と教えた。


「美味しそう。」


キースの説明にセリの素直な感想。


怒り狂う魔物の声が聞こえる場で、呑気な会話だった

(もうツッコまない)


カナンは決心した。


その先では楽々と5頭の魔物が倒れ、

シュルトが何やら指示して、グスタフとロードが作業している。


(なかなかの大物だ。)

騎士の部隊では苦戦しそうな、デカさ。

怒りで荒れていた突進も、なんなく躱していた。


確かに美味そうだと思う自分も、感化されていると気付きたくなかった。

「赤ワインだな。」

うまい酒が飲めそうな予感がした。

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