第16話 勇者の仲間たち⑦
確かにマッツの魔法の威力は凄まじかった。そう考えれば魔法専門職のミアだって同じようなことができるということなのかもしれない。
それに国家の存亡の危機に送られてくるのが学生ってことについて、俺は不思議に思っていた。普通に考えて、生徒を教える先生で一番強いのが来るだろう?
それなのに魔法学園の生徒を送ってくるってことは……ミアはひょっとして。
「では、始めますよ! ミア殿、準備を!」
「は、はい!」
オーガに巻きつけられていた鎖が外されると、ここまで引っ張ってきた兵士たちが必死の形相で蜘蛛の子を散らすように逃げだす。
あれが一般的なリアクションなんだろうな。
ミアは慌てたように杖を握り何かを唱えている。
一生懸命、呪文を唱えているミアはとても強そうには見えないな。
「やっぱり魔法には詠唱があるんだね、リンデマンさん」
「そうですね、無詠唱で魔法を使うのは相当な技術がないと魔力を無駄に喰ってしまうんだそうです」
へー、それじゃあマッツって相当すごいんじゃないかな、訓練していないだけで。
リンデマンさんの説明の途中、ミアの杖がボワッと光を帯びてきた。
「それに魔法使いの杖には魔法の威力を増幅させる効果があるのです」
「なるほど……まるでゲームの中と同じ感じだな」
解き放たれたオーガたちは体が自由になったのを確認するように体を動かし、前方にいるミアを見つけた。
すると、今まで拘束されていたこともあるんだろう。
怒り狂ったように咆哮をあげてミアにその矛先を定めたようだった。
「ミア!」
俺が声を上げた同時にミアの詠唱が終わる。
「いきます! サンダーブラストォォォ!」
お、あれはマッツが繰り出した魔法だ。
よし、マッツが見せた威力と同程度なら倒せそうだ。
ミアの濃紺の髪が逆立ち、杖を前方に突き出すと杖から稲光のよう大きな光を放った。
チョロチョロ~、ペタ!
そうだな、音にするとこんな感じかな。
二体のオーガに向かった糸のような細い雷撃がゆっくりと這いずるように進み……、
オーガたちのおでこに当たった。
オーガたちは首を傾げて軽くおでこに手をやるが、一体は何事もなかったようにミアに突進を始め、もう一体は近くにあった大岩に手をかけて持ち上げ始めた。
「……あれ? おかしいですな」
マスローさんやリンデマンさんが首を傾げる。
「おかしいですな、じゃねぇぇ!! なんだよ、あれは!? 全然、効いてない、というか魔法が弱すぎんじゃないのか!? 魔法学園で最強の魔術師なんじゃないのかよ!?」
「いや! そのはずなんですが!」
「ただ怒りを買っただけにしか見えねーぞ! あ、やばい! ミアが!?」
ミアは顔を青ざめさせて体が硬直してしまっているようだ。魔法を放った場所からまったく動いていない。
しかもこの間に一体のオーガが大岩を持ち上げ……ミアに放り投げてきた。
「きゃあーー!!」
ミアは悲鳴を上げるが、腰が抜けているのか、その場にとどまっている。
やばい、やばい! でも、どうすることもできない!
大岩は放物線を描き、見事にミアの頭上に迫る。
「来ないでー!!」
ミアは体をよじらせて杖を持たない左手を大岩に突き出す。
そして、大岩がついにミアの体を押し潰す……
はずが潰されない?
「は?」
大岩がミアの手の上に……乗っている?
「きゃあーー!」
ミアは悲鳴をあげると、
「この……サンダーブラストって言ったでしょうが! おらぁ!」
ミアの顔色と声色が変わり、手の上に乗っている大岩を、まるでピッチャーのように投げ返した。
大岩は放物線……じゃないな、大地の上を滑空するような驚異のスピードで、大岩を放ってきたオーガに直撃。
そのオーガの上半身が消えた。
「……!」
「……!?」
「……????」
俺たちはこの光景に顎がはずれそうになる。
何が起こったか分かっていないもう一体のオーガはミアに迫り、筋骨隆々の拳をミアに繰り出す。
「きゃあ! ……あなたもサンダーブラスト喰らってんでしょうが!!」
オーガの右拳にミアの小さな左拳がカウンターで入る。
すると、オーガの頑強そうな拳にミアのか弱そうな拳がめり込んでいき、オーガの右腕が肩から吹き飛んだ。
オーガは驚愕の顔で前につんのめる。まだ、今、起きていることが分かっていないようだった。
そして、間髪入れずにミアの二撃目がオーガに繰り出される。
あ、拳のことね。
「きゃあ! サンダーブラストなの! さっきサンダーブラストって言ったの!」
ミアはもう杖は使っていない。
ミアの見事なアッパーが倒れ掛かってきたオーガの腹部にさく裂。
オーガの腹には大きな空洞が出現し、肉と骨の混じった血しぶきを後方にまき散らせた。そして、そのまま前に倒れるとミアは今できたオーガの空洞の中をくぐる。
「……おい、マスローさん」
「な、何ですかな? 勇者殿」
「魔法学院に何て言ったんだっけ?」
「う、うむ、学院で最も強い魔術師を送ってくれ、と伝えた。魔王と戦うのじゃからな、当たり前のことだろう?」
「ああ……たしかに。たしかに強いな」
「……じゃろう」
「けどな……」
「な、何かな?」
「魔法以外でなぁぁぁぁ!!」
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