第15話 勇者の仲間たち⑥




 俺はホルストが熱心に治療した大男の体をさする姿を見て頬を緩める……。

…………ちょっと、待て。

 さする? 治療した後にさするの?

 何故か、冷たい汗が俺の背中に流れるのを感じる。

 気のせいかホルストは遠めでも息が荒そうに鼻の穴を広げているようだ。

 あれって……聖職者のする顔ですかな?


「あ、あの、リンデマンさん、あれは……」


「うん? なんですかな? おお、ホルスト殿は熱心ですな」


「え? 感想はそれだけ!?」


「何がですかな?」


「い、いや、いい」


 俺はホルストに再び目を移す。

 確かに熱心と言えば熱心……なのか?

 マッツはほったらかしなのに。

 そういえば筋肉が何だとか言っていたような……。

 気づけば、ホルストの手は気を失っている大男の……。


「ひ……!」


 俺は顔を無意識にそむける。

 ————これは見なかったことにしよう。

 あの大男が新しい自分を発見しないか心配だが……。

 だが、これで確信めいたものが俺にはある。

 ホルスト……あいつは本物だ。メッキじゃない、本物だよ。

 そして、もう一つ分かったことがある。

 あいつがいる限りこのチームで絶対に怪我はしちゃだめだ! 絶対に。 

 ましてや気を失うなんてもってのほかだ。

 だってあいつ、多分……いや、間違いなく、


 男が好きだろ。


 教会は何てモンスターを派遣してくれたんだよ。


「リンデマンさん、掘るスト……じゃなくてホルストの教会からの推薦状ある?」


「ありますよ? えー、ああ、これです。“ホルスト・メリーノ。若くして我がフリッグ教の司祭になった逸材です。その回復術や支援法術は、抜きんでています。彼ほど勇者の回復、支援役に相応しい人物はいません。ただ、心配なのが……”」


「うん!? 何!? 心配なのは!?」


「禁欲の修行が過ぎたのか……」


「過ぎたのが!? 何!?」


「あ……ここで汚れで読めません。そういえば、ホルスト殿が途中で推薦状を土の上に落としてしまったと申し訳なさそうにしてましたな。あ、でも、フリッグ教会の印は残っています。これは本物ですから、心配いらないですぞ」


「心配だわ!! 一番大事なところだけ汚れで読めなくなるってないだろ! しかも、ピンポイントで!」


「え? そんなことはないでしょう。マサト殿は心配性ですなぁ」


 リンデマーンさーん! 人がよすぎるよ! それでよく大臣とかやってられんな。

 これ、あいつだよ! 絶対、わざとだよ! 隠ぺいしやがった。

 うちのチームに最凶のモンスターが!

 魔王が美形のマッチョだったら裏切るわ!


「まあ、ホルスト殿は回復でその実力を見せてくれましたし、最後にミア・ゾフィー・シュバンシュタイン、お願いしますぞ」


「はい!」


「ああ、最も大事な話が流されていく……」


 俺は魔王とは違う恐怖に悶えた。




「ミア殿」


「はい!」


 マスローさんに声をかけられミアは口をギュッと閉じ、緊張気味に前に出て行った。

 俺はミアの小さくなっている背中から相当、固くなっているのが分かった。

 こうやって見ると魔王討伐に選抜されるほどの魔法使いには見えない。

 それにさっきのアホ騎士の魔法が非常識にすごかったから委縮しているのかもしれない。


「ミア、もっと気楽にな。ちょっとしたイベントみたいなものだから。学園でやっているように、いつも通りの感じでやればいいよ! やっぱり、魔法はしっかり学んだスペシャリストの方が頼りになるからな」


「あ……はい! ありがとうございます! マサトさん。そうですよね! 魔法は私の専門分野ですから」


 俺に振り向いて、ニコッと笑うミア。

 うん、いい子だな。

 それにこれは事実だろう。マッツの魔法の威力は驚いたが、放った後に驚いて目を回す奴など邪魔でしかない。魔法のことをよく分からない俺でもそれぐらいは分かる。

 そう考えると、あのアホ騎士、剣の腕はダメダメだし、どこで使うんだ?

 マジで敵のど真ん中での自爆係以外使えないんじゃないか?


「準備オーケーです! いつでも始めてくださいー」


 ミアは天幕から距離をとった場所でこちらに合図を送ってくる。

 それを受けてマスローさんは頷くと、近くに部下に指示を出した。


「よし、では相手を連れてこい!」


 すると……背後の城壁のからゆっくりとしたリズムの地響きが起き、俺は驚いてその方向に目を向けた。


「な、何だありゃ!」


「はい……あれはオーガです」


「……オーガ!?」


 身長にして5メートルくらいはありそうな巨体、形容するなら日本で言う鬼に近い姿。

 そんな化け物が鎖で雁字搦めにされて十数人の兵士たちに引っ張られてきた。

 しかも、二体。


「おいおい、マスローさん!? あんなの大丈夫なのか!? ミアにこんな化け物を。ちょっと、リンデマンさん!」


 思わず俺は叫んでしまう。


「はい。私どもも驚いたのですが魔法学院からの推薦状にミア殿の力を測るときに使ってくださいと送られてきたんです。あの鎖も魔法がかけられた特別製だそうで」


「魔法学院が? それにしても相当、強そうに見えるけど」


 マスローさんは横で腕を組んで二体の巨大な化け物を眺めている。


「実際、非常に強いですぞ、マサト殿。この辺りでは最も強いモンスターです。カッセル王国騎士団も倒すのに苦労すると言われておりますから。ですが、これぐらいじゃないとミア殿の力は測れないとのことです」


「マジかよ……あんな女の子がそんなに強いっていうのか」


「魔法学院には最も強い魔術師を送ってくれ、と伝えてミア・ゾフィー・シュバンシュタインが来たのです。ということは、それだけの者なのでしょう。あの年齢を考えれば末恐ろしい魔法使いですな」

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