第14話 勇者の仲間たち⑤



「おい、マッツ! 魔法が使えるんだろ。それを見せてみろ! そのままじゃ……」


「む!? マサト、それをどこで聞いたのだ! ゼーゼー、魔法は剣を扱うものとしては邪道! ゼーゼー、私はあくまで剣で敵を倒すことを誇りにしている。うぷっ、ま、魔法はあくまで補助程度のものだ!」


「えーー」


 だからその剣がまったく扱えてないでしょうが。

 無駄に面倒くさい奴だな。

 そういうのは剣が強い奴が言うセリフだろ。あんた吐きそうだし。


「それじゃ、お前の実力が分からんだろうが! お前のその程度の剣の腕で魔法が補助程度なら役に立たんわ! いいから見せてみろ!」


「なんですと! それは勇者と言えどさすがに聞き捨てならない……」


「レオノーラさんにジャクリーンのこと言うぞ」


「サンダーブラストォォ!!」


「……え?」


 俺は驚きのあまり、体が固まってしまった。

 マッツの手から凄まじい稲光と轟音が発せられ、ここにいる全員が視界を奪われてしまう。横からマスローさんの声で「目がぁ! 目がぁ!」と聞こえてくる。

 そして……ようやく視界が明らかになっていき、マッツのいる方向を見ると……。


「おおおお! す……すげえ」


 こんな感想しか言葉にできなかった。

 それだけすごかった。

 マッツの左手から放たれた魔法はなんと大地を切り裂くようにそのまま遠方まで大地をえぐっている。

 それだけで否が応でもその大威力を発揮していたのが分かる。

 相手の屈強の大男は突然の至近からの魔法に対処ができず、掠ってしまっただけのようだったが、気を失い、泡を吹いていた。

 魔法を放ったマッツは何故かフラフラして、倒れた大男に近づき力なく剣をポテっと一太刀浴びせる。


「おーい! 一本取ったぞ! 我が剣に敵はない! 魔法はあくまで補助! はははー! うぷ! オエエエエ」


 おいおい、マッツ、吐いているぞ。

 俺は無意識に思ったことを口にした。


「あいつ……何で騎士やってるの?」


 その問いに答える者は誰もいなかったりする。




 マスローさんやリンデマンさんも流石に予想外だったのか、想像の斜め上を行き過ぎたのか、呆けていたが、リンデマンさんがハッとしてマッツの資料にもう一度、目を通す。


「マッツ・ロイスには婚約者がおり、その婚約者が強い騎士じゃなきゃ嫌! と言ったことから騎士を目指すことになった。体は強くなく、むしろ役に立たないが魔力だけは無駄に多い。騎士団の実地訓練で追いつめられると無意識に魔法を繰り出し、何人も病院送りにされたので騎士団として困っています。何度も魔法学校への転入を説得しても聞かないので、勇者のパーティーに推薦しました。魔法はすごいので、役に立ててください。総騎士団長より」


「うおい!! ただの厄介払いみたいな文だな、総騎士団長! 魔王倒すのに力を貸そうと本当に思ってんのか?」


「あ……わが国では今まで魔王が現れなかったので、あんまり深刻さが伝わってなかった可能性が……」


「それでも、他の国では魔王が現れて大変だったんだろう?」


「あ! ちょっと待ってください。推薦状に続きがありました! えー、〝PS. 本当にやばかったら言ってください。騎士団が総出で戦います〟とのことです」


「ぬぬう!」


「ま、まあ、勇者殿、総騎士団長にはわしから伝えておくから。次の者に移りましょう。それにあの魔法の威力は、確かに大きな武器になるでしょうし」


 マスローさんが俺を宥めるとミアも興奮したように声を上げる。


「はい! 私も学校で見た中であれ程の威力のサンダーブラストは見たことがないです! 初級魔法なのに、最上級魔法並みですよ! あんな魔法見せられたら、わ、私……」


 ミアがアホ騎士の魔法で自信を喪失しかかっている。

 これはよくない。


「あ! あいつは騎士だから! 前衛で戦う職業。ミアは後衛から魔法をバンバン放ってくれればいいからね? いや! ミアはいてくれるだけでもいいの!」


 可愛いから。


「はい、頑張ります! マサトさん!」


「あれ? そういえば、マッツはどうした?」


「おお、そういえば……。あ、マッツ・ロイスならあそこに」


 リンデマンが指をさした方向を見ると……、

 どうやらマッツは自分の放った魔法に吃驚し、まだ目を回しているようだ。

 あいつ……。

 俺は真剣にマッツを囮(おとり)兼自爆係に任命しようかと考えた。




「次にいこう、次。次はそうじゃな、ホルスト・メリーノ……あれ? ホルスト・メリーノがおらんぞ?」


 マスローがホルストの姿が見えずキョロキョロし、俺たちもいつの間にかいなくなったホルストを探す。


「あ、あそこで、倒れたマッツ・ロイスとその相手を治療しているようです、宰相」


「おお、さすがはフリッグ教のハイプリーストじゃな! 怪我をしている人や倒れている人を見ると無意識に反応してしまうんじゃろう」


 俺もホルストが大男を熱心に治療しているのが分かった。

 祈るような仕草の後、大男の体がフワッと光る。

 ああ、あれが治癒術なんだろうな。生まれて初めて目の当たりにする治癒魔法はなんというか幻想的だ。

 戦いでは何が起こるか分からないと本などでよく聞くセリフだ。魔法のない世界から来た俺にはその場で治癒ができるって本当にすごいことだと思う。俺の世界ではとにかく病院に連れて行かなくちゃ始まらないからな。

 紹介されたときは理由の分からない悪寒が走ったが、今は頼もしいとすら感じる。

 ゲームでも回復役がいると生存率がグンと上がる。

ここは現実だけど、きっと同じことが言えるんじゃないかな。



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