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「教皇と大司教があなたたちをお呼びです。至急、皇室へと同行願います」


 聖職者の男が言った。


 またもや身に覚えのない強制イベント発生か。教皇と大司教と言うと――この都市でも最高の権力者たちだ。そんな彼らが俺たちにいったい何の用だろう。


「どうぞこちらへ」


 男が先頭に立って誘導する。周りには逃がすまいと何人もの聖職者が。同行というかほぼ連行といった風だ。最上階の奥、仰々しい扉が開かれるとそれらしい人物が見えた。


 きらびやかな腰掛けに座している二人の男。片方は黒の司教服で、もう片方は白の祭服を着ている。身なりからして間違いなく大司教と教皇だろう。


 教皇の方は権威を示す宝冠ミトラを被り、権杖けんじょうたずさえている。歳はそこまで高く見えない。顔つきからしてどちらも中年くらいに見える。毛髪は教皇が白髪で、大司教が金髪か。


「カルテガへようこそ冒険者諸君。私はディート。この都市の最高権力者、教皇を務めている者だ。そして彼はアグニス、大司教――都市のNo2と言った方が分かりやすいか。何れにせよ高位に就いている者だ。くれぐれも敬意を欠かさないでくれたまえ」


 淡々と言うディートの表情は固い。俺たちに話があるようだが……あまり良いイベントだとは思えないな。教皇さまも大司教さまも酷い仏頂面だ。果たしてこれから何をされるのやら。


「ここ最近、魔人による脅威は増すばかりだ。噂によるとバルドレイヤでは魔人が大量のモンスターを率いて攻め入ってきたらしい。それだけでなくプロフィール情報の改ざんや冒険者へのなりすましも可能だとのこと」


 ディートは一息ついてから続ける。


「――さて本題だが、今日都市へと踏み入ってきた冒険者は果たして、本物なのかどうか。冒険者を装った魔人ということもあり得る。もしそうだとすれば都市へは置いておけまい。直ちに追放すべきだろうな」


 なるほどそういうわけか。どうやら彼はバルドレイヤの一件を詳細に把握しているらしい。だが魔人かどうかを判別する方法なら知っている。殴ってみればいいだけだ。当たり判定の有無で、モンスターサイドかどうかハッキリできる。


「だったら、この場で俺たちを攻撃してみてはいかがですか。仮に俺たちが魔人であればダメージを負うはず」


 一帯はしばしの間沈黙した。教皇も大司教も眉間にしわを寄せている。俺の言ったことが理解し難いと言わんばかりに。


「君たちには身の潔白を証明してもらう。情報によれば黒薔薇くろばら教会の最深部には魔人が根城ねじろを構えているとのこと。都市に留まりたいというのであれば、魔人討伐をしてきてもらおうか」


 ディートの提言は完全に俺の意見を無視していた。


「待ってくれませんか教皇、そんなことをしなくても攻撃しれみれば分かることで――」


「いいや分からない。私たちにはそんな情報聞いたこともないのだからな」


 これまで静観していた大司教、アグニスが会話に入ってきた。


「その通り。いま信じられるものは事前に知っていることだけ。魔人かもしれぬ相手の意見など、どうして信用できようか。君たちに与えられた選択肢は二つに一つ。魔人を倒しに行くか、バルドレイヤへと帰還するかだ」


 ディートがここぞとばかりに畳み掛ける。なるほど、本当にまったくこれっぽっちも信用されていないようだ。魔王を倒すためには先のエリアに進む必要があるし、レベリングに関してもそうだ。よってここで帰るという選択肢はあり得ない……のだが……。


「黒薔薇教会か……」


 キルゾーンのことを考えれば、自然とため息が出てしまう。魔人の居場所が割れていることは僥倖ぎょうこうだが下手をすればこっちが死にかねない。みんなを巻き込んだらそれこそ最悪だ。乗り気になれないのも当然だろう。


「大丈夫よ、私たちを信じて」


 コトハが言うと他のみんなも頷く。みんな覚悟が決まっているようだ。それなら――。


「分かりました、その依頼を引き受けましょう」


 俺の返事にディートとアグニスが首肯しゅこうする。


「いい返事だ、是非とも健闘してくれたまえ。――それではまた」


 ディートが手を上げると、周りの男たちが再び動き始める。行き先からしてギルドの出口……いや都市の出口まで連行か。魔人を倒してくるまで本格的に立ち入り禁止らしい。


 決してキルゾーンでへまをするわけにはいかないな。できる限りの手は尽くさないと。


 俺はスキルリセットポーションを飲み、スキルの再習得を始めた。

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