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「えー……どうも初めまして。この度はギルドへの加入申請をありがとうございます。まずは自己紹介をお願いできますか」


 トップバッターはギルド最年少のリズ。場所は居間のテーブルで。


 お互い向かい合うように着席すると面接練習がスタートした。


「えっとね、なまえはリズベットで、職業はオペレーター系列のカタクラフト!」


「ありがとうございます。コアタイムはだいたい何時から何時くらいでしょうか」


「ふぇ? コアタイム?」


 リズが首をかしげている。どうやら知識に無い言葉らしい。


「活動時間のことです。冒険者といっても常に活動しているわけではないので」


「そういうことなんだね! えっと……おにいちゃんと一緒なら活動はいつでも……」


 リズがもじもじと顔を赤らめる。


 ……おいなんだその返答は。まるで違う受け答えをしているみたいじゃないか。頼むからやめてくれ、コトハたちからの視線が痛い。


「カタクラフトということは支援が得意なジョブだと思います。複数人でパーティーを組むことに抵抗はありませんか?」


「うん、おにいちゃんといっしょなら!」


「……なるほど。当ギルドではドロップアイテムの分配は公平性を考慮こうりょしてランダム。他者への誹謗中傷ひぼうちゅうしょうは厳禁、またギルメン同士での争いも固く禁じております。その他マナー違反行為を見かけた場合は直ちに除名処分といたします。こちらの規約にご理解はいただけますでしょうか」


「うん、おにいちゃんといっしょなら!」


 リズが満面を笑みで彩る。


 こいつはダメだ。おそらく何を聞いたところで同じ答えが返ってくるだろう。まあ……ギルメンたちに見せる予行練習としてはプラスになった。ここいらで打ち切ろう。


「分かりました。結果は後ほどお伝えいたしますのでしばしの間お待ちいただくようお願いします。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました」


「ありがとうございました!」


 リズと同時に一礼して面接練習は終了。パチパチとつつましい拍手が鳴った。


「――とまあこんな感じだ。お互い認識の齟齬そごが無いように、ギルドが求める条件を提示していく。基本的にはコアタイムとかパーティーでの活動経験とかがメインかな。性格ももちろん大事だけど、戦力になるかどうかがよく見られるポイントだ」


 もっとも本来はINイン率――週に何回ログインできるか、という質問は絶対にされる。わいわいギルドでなければIN率が最重視されると言っても過言じゃない。あいにくとこの世界はログアウトすらできないため、IN率もクソもないが。


「意外とあっさり終わるのね。もっと細かく問い詰めてくるものかと思ったわ」


 コトハが言った。


「ギルドによっては、どのIDの周回経験があるか、どの程度の実績があるか、なども聞かれるかもしれない。だけどうちはそこまでガチ勢じゃないし、基本的なことだけでいいだろう。みんなで行動できる人なら特に問題ないかな」


「アルトくんアルトくん、練習はもう終わりなのだろうか。もし時間があれば、われも試してみたいのだ」


 フィイが名乗りを上げると、


「わたしもよ。でもせっかくなんだし面接する側でもいいかもしれないわ」


「ククク……暗黒界より生まれし我に押し問答とは命知らずもいいところなのだ……」


 コトハとペルも便乗する。だけど彼女たちは本番で面接する側に回るんだし、何度も受ける側の練習をする意味はない気が……。ちょっと早いけど実践してみてもいいのかも。


「それじゃあこうしよう。早速本番に移るからみんなは今やったことを復習しておいてくれ。今日は十人くらいと面接してみようかな」


「ちょっと待って――もう本番っていくら何でも早すぎよ! リズ以外は見ていただけじゃない!」

「大丈夫だって、横には俺が付いてるしトラブルが起きないようにはする。そう身構えなくてもいい、基本的な受け答えをするだけだ」


 そう言うとコトハは渋々といった顔で引き下がった。ギルドハウスはギルメンのみ使用可能なためバルドレイヤの待合所へと移動。


 俺とリズ、フィイ、ペル、コトハがそれぞれ一人ずつ交代する形で面接を行う。今はまだ分からないけど、そのうち彼女たちが独り立ちして大きなギルドを構えることになるかもしれない。これもいい経験になるだろう。


 そうしてギルド加入希望者と連絡を交わしてから一時間後。遂に初めの加入希望者と顔合わせをした。俺とリズは隣同士の席に、男は対面の席に腰を下ろす。ギルド面接の幕開けである。

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